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「NTT法見直し」第2幕へ…“本丸”3議題、見えてきた方向性を深掘りする

「NTT法見直し」第2幕へ…“本丸”3議題、見えてきた方向性を深掘りする

NTT東西が全国で管理している電柱1186万本も国内地域電気通信に欠かせない

NTT法見直しを議論する情報通信審議会(総務相の諮問機関)の三つのワーキンググループ(WG、作業部会)で論点整理案が出そろった。通信政策特別委員会などへの報告や協議を経た後、報告書案や第2次答申案の作成に着手する。第2次答申は今後の日本の通信のあり方に大きく影響を及ぼす。NTT法改正の本丸とされるユニバーサル(全国一律)サービス、公正競争、外資規制を議論した各WGで見えてきた方向性を深掘りする。(編集委員・水嶋真人)

各WGの論点整理案の主なポイント

ユニバーサルサービス 固定電話に携帯網活用 緊急通報機能の品質課題

ユニバーサルサービスWGでは、電話を全国あまねく提供するNTTの責務の見直しが主要議題となった。

電話のユニバーサルサービスは当初、メタル回線(銅線)を用いたメタル固定電話、公衆電話と緊急通報が対象だったが、メタル回線の老朽化を踏まえ、光回線を用いた光IP電話や携帯電話網を用いたワイヤレス固定電話が追加された。

だが、携帯電話の普及に伴い「メタル固定電話の契約数は1998年の約6300万契約をピークに減少し続け、現在は約1400万契約にとどまる」(総務省事務局)。NTTは老朽化に加え、契約者減でコスト効率も悪化していることから35年をめどにメタル回線を縮退する方針を示した。

音声通信サービスの加入契約数

WGの議論では、固定電話は今後、ブロードバンド(高速インターネット回線)のオプションで現在の契約数が約4500万ある光IP電話が中心になるとしながらも「30年時点で約730万契約という相当数のメタル固定電話利用者が残存する。メタル回線の全国的な維持が必要となり、(22年度で約300億円に上る)NTTの赤字額のさらなる拡大が予想される」(同)と指摘。当面は引き続き固定電話単体サービスの保障をしつつ、携帯電話網の活用をさらに進めることが必要ではないかとの論点整理案をまとめた。

ただ、携帯電話網を用いたモバイル網固定電話は、通信品質やファクスの安定利用ができないなどの課題がある。地域固定電話番号「0ABJ」を使った従来型の固定電話は緊急通報時に位置情報として契約者らの住所が受付台などへ送信されるが、090などの「0A0」を用いたモバイル網固定電話は、全地球測位システム(GPS)や接続する携帯通信基地局による情報までしか把握できない。WGの構成員を務める名古屋大学大学院法学研究科の林秀弥教授は「加入電話(メタル固定電話)に近い形での緊急通報機能や品質が提供されるべきだ」と指摘する。

2022年の119番通報件数

一方、成城大学社会イノベーション学部の岡田羊祐教授は、携帯通信が社会インフラとして普及し、緊急通報でも非常に大きな位置を占めているとした上で「緊急通報の機能を具備すべき責務が(自社で携帯通信回線を持つ)MNO(移動体通信事業者)の側にあるという大前提で考えていくべきだ」と提案する。

消防白書によると、22年の119番通報件数約942万件の54・5%が携帯電話からの通報だった。緊急通報でも携帯通信からの発信が主流となる中、メタル回線の縮退も35年に控えている。メタル固定電話の赤字額は22年度の300億円から35年度には900億円に達する見通し。赤字の一部補填を国から受けているメタル固定電話の代替案を早急に策定し、赤字額を抑えることが国民負担の軽減にもつながる。

公正競争 線路敷設基盤、東西会社に

公正競争WGで主要議題となったのは、NTTが日本電信電話公社から引き継いだ電柱などの“特別な資産”のあり方だ。

NTT東日本、NTT西日本は全国の局舎約7000カ所、電柱約1186万本など日本電信電話公社が約25兆円を投じて建設した線路敷設基盤を受け継いだ。KDDIソフトバンク楽天モバイルなどの競合他社は、同基盤が国民負担で作られた国内通信に欠かせない特別な資産だと指摘。これらの活用に関する公平性が崩れかねないとして、NTT法廃止に反対してきた。

これに対し、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院の高橋賢教授はNTT東西からの特別な資産の分離は「イニシャルコスト、ランニングコストともに非常にかかる一方、ベネフィット(恩恵)はあまり大きくない」と指摘した。

林教授は通信各社間の設備競争に一定の限界があるとし、「NTTを特殊会社としつつ、保有する線路敷設基盤を有効活用して電気通信設備の高度化と多様なサービスの提供を図ることをNTTの責務として明確化してはどうか」と提案。他の有識者もこれらの意見におおむね賛同した。

林教授は、このNTTの責務の担保措置として、NTT東西が自己設備を設置して地域電気通信業務を行うとする「自己設置要件」を原則として維持し、重要設備譲渡の認可対象に線路敷設基盤の追加を提案。「今後、メタル設備の縮退に伴ってメタル回線や電柱などの線路敷設基盤を廃棄する場合も認可の対象にするべきだ」と述べた。

NTTが要望していたNTT東とNTT西の統合については「他事業者との規模の格差が拡大し、設備競争が減退する恐れがあるため、結論を出すのは時期尚早だ」(林教授)との見解を示した。

経済安全保障 外資総量規制を維持

経済安全保障WGでは、NTT法でNTTに課している外資規制の見直しを協議した。

NTT東西が管轄する電話線などを通すとう道も「特別な資産」の一部

現在、外国投資家による電気通信事業者の株式取得は外為法により、国の安全を損なう恐れなどがある1%以上の個々の株式取得について事前届け出による個別審査を行うといった規制がある。

NTTには外為法に加え、日本を代表する基幹的な電気通信事業者で安全確保の必要があることから、NTT法で外国人の議決権保有割合が3分の1以上になることを禁止する総量規制を課している。このため、NTTは「総量規制は世界的に廃止するのが原則であり、データや携帯通信の設備情報や顧客情報も重要な対象物になっている」として、NTTのみを特別に規制する合理性は失われていると主張した。

これに対し、慶応義塾大学大学院法務研究科の渡井理佳子教授はNTTが電信電話公社の“特別な資産”を継承しているため、NTTのみへの規制は正当化できると指摘。「経済安全保障が重視される中、NTT法の総量規制を撤廃するのは得策ではない」と述べた。NTT以外の主要事業者に対する総量規制については「日本の事業者の海外展開への影響や国際約束との関係を勘案すると、実現の環境は整っていないと思われる」(渡井教授)とした。

日刊工業新聞 2024年7月4日

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足かせ外し再び世界一へ-NTT法改正議論
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1985年の日本電信電話公社の民営化を受けて制定したNTT法を見直す議論が進んでいる。通信手段の主流が固定電話の時代に作られたNTT法には時代遅れとなった規制がある一方、電柱や通信局舎など国民負担で作られた特別な資産を公平に扱う義務が不可欠だ。国内通信業界の今後を左右する議論の核心に迫る。

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