NTT法見直し…“本丸”の議題佳境に、見えた方向性
NTT法見直しの本丸であるNTTの“特別な資産”や外資規制のあり方に関する議論が佳境を迎えている。有識者や関連企業が参加する情報通信審議会(総務相の諮問機関)の作業部会で、それぞれの議題の方向性が見え始めてきた。NTT法見直しは日本の通信産業の今後の方向性に大きな影響を及ぼす。国際競争力の強化に加え、変化が激しい通信技術の進歩にも対応できる制度が求められる。(編集委員・水嶋真人)
特別な資産 インフラ提供は責務
「NTTが維持し、そこに設置される電気通信設備の発展責務を課すべきだ」―。作業部会の構成員を務める名古屋大学大学院法学研究科の林秀弥教授は、電柱や管路といった特別な資産についてNTTが引き続き運用することは合理的だとの私論を示す。
NTT東日本、NTT西日本は全国の局舎約7000カ所、電柱約1186万本など日本電信電話公社(現NTT)が約25兆円を投じて建設した線路敷設基盤を受け継いだ。KDDIやソフトバンクなどの競合他社は、同基盤が国民負担で作られた国内通信に欠かせない特別な資産だと指摘。これらの活用に関する公平性が崩れかねないとして、NTT法廃止に反対している。
このため、作業部会は線路敷設基盤や光ファイバーなどNTT東西が管理するアクセス部門の運営主体について、①NTT東西が引き続き運営②NTTグループ内で別会社化③資本分離して国有化④資本分離して民営化―などの選択肢を提示。NTTや競合各社に意見を求めた。
NTTは「資本分離して誕生したアクセス会社の収入が接続料のみとなった場合、コストを効率化しても利益が増加せず、設備構築が停滞する恐れがある」との懸念を表明。アクセス会社に法務、経営企画などの部門を設置する間接費用や設備部門の分割損が発生するとして「NTT東西のアクセス部門の資本分離は不要である」との見解を示した。
これに対しソフトバンクは「アクセス部門の完全資本分離はNTTによる本来業務以外への事業拡大などによるリスクを排し、特別な資産の保護を確実にする」と指摘。その上で「特別な資産の利用の公平性をより確実にし、競争を促進する。ユニバーサル(全国一律)サービスの確保に好影響を与える」と主張する。
ただ実際にアクセス部門を分離した場合、「中長期的には料金の高止まりやインフラの脆弱(ぜいじゃく)化など国民へ不利益を及ぼす恐れがある」(オプテージ)との意見もある。KDDIは「経営形態にかかわらず現状のNTT法で担保している全世帯への提供責務や撤退禁止を課すべきだ」とした。
名大の林教授は私論の中でNTTを引き続き特殊会社に位置付け、「線路敷設基盤を有効活用した電気通信設備の高度化や多様なサービスの提供を図ることを責務として明確化するべきだ」と述べている。NTT東西に対し、移動通信やインターネット接続サービス(ISP)事業への参入を禁止しつつ、特別な資産の運用を継続させる方式が現実的とみられる。
外資規制引き続き維持が必要
もう一つの本丸である外資規制に関する議論も進んでいる。慶応義塾大学大学院法務研究科の渡井理佳子教授は、NTTが特別な資産を持つことを念頭に、外国人らの議決権割合を3分の1未満に制限するNTT法の総量規制について「引き続き維持する必要があると考えられる」と語る。
NTTは積極的に受け入れるべき投資が制限されてしまうことを理由に総量規制の廃止を主張。一方でNTTを含む主要通信事業者を対象に、懸念がある企業の支配力が強まってしまうような事態を排除する、個別の投資審査強化を検討するよう求めていた。
だが、東京証券取引所は「投資家は総量規制を比較的冷静に受け止めている印象だ。総量規制を撤廃するべきだとの意見を投資家から聞いたことはない」と指摘。主要通信事業者への個別の投資審査の導入については「規制範囲が広がるとして投資家は強い懸念を持っている」とした。投資家が個別銘柄を分析して投資を判断しても審査が入っている間に株価変動のリスクにさらされる。届け出に関するさまざまな負担も生まれるからだ。
渡井教授も個別の投資審査について「自由化と逆行する動きとみられかねない。国内事業者の海外展開への影響や国際約束との関係を勘案すると、実現の可能性は整っていないように思われる」と主張する。
作業部会は本丸案件に関する答申を今夏にもまとめる。経済安全保障が重視される中、NTTが特別な資産を持つ限り、総量規制の維持は必要と言えそうだ。