旭化成・東レ…次世代エネルギーの有望株「水素」、化学メーカーの研究開発活発
化学大手各社による次世代成長基盤創出の動きが活発になってきた。持続可能性の追求と事業ポートフォリオの変革を各社が重要視することが背景にある。有望視する分野は水素関連から半導体材料、環境負荷低減に資するリサイクル関連までさまざまで、こうした多彩な技術が化学業界の強みと言える。持ち味を生かして持続的な成長を果たすべく、けん引事業を育てる施策を打ち出せるか。各社の動きを探る。(全3回)
「アルカリ水電解は水を電気で分解して水素をつくる。二酸化炭素(CO2)を排出せずエネルギー生み出す水素社会の構築には非常に重要な技術だ」。旭化成の松山博圭常務執行役員はこう力を込める。
川崎製造所(川崎市川崎区)で水素製造用アルカリ水電解パイロット試験設備が稼働した。4基の0・8メガワットモジュールが並ぶ。さまざまな環境下で複数設備の最適な制御などを検証する。旭化成は水素関連を次の成長をけん引する事業の一つに位置付ける。まずアルカリ型水電解装置での2025年の受注開始を予定する。
旭化成の技術を支えるのは、長年培ってきた食塩電解関連技術とサービスだ。特に水電解の安全性などには一日の長があると自負する。竹中克上席執行役員は川崎製造所を「石油化学の技術をグリーンケミストリーに変えていく拠点にしたい」と意気込む。川崎市ではゼロカーボンに向けた施策が進む中、川崎コンビナート内での連携も重要性が増す。
水素は「欧米を含め関心が高く支援策が動いている」(松山常務執行役員)という状況。世界で次世代エネルギーとして有望視される。日本政府も「グリーン成長戦略」で水素使用について、30年に300万トン、50年に2000万トンへの引き上げを目標とする。23年に実施した富士経済(東京都中央区)の調査では水素関連(水素ガス、関連機器)の40年度の世界市場は21年度比3・5倍となる90兆7080億円となる予測だ。
こうした成長性に呼応し、化学メーカーによる水素関連の研究開発は一層活発になっている。特に盛んな技術が、水素製造で量産が得意なアルカリ型と比べ、応答性などに優れる固体高分子(PEM)型だ。普及に向けて、東レはPEM型水電解装置向けで炭化水素系(HC)電解質膜の量産を25年に計画する。
東ソーや日本カーリットも理化学研究所と連携し、水電解に関する共同研究開発が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業に採択された。水素は用途も幅広い。各社は連携の輪を広げつつ、確実な需要獲得へ知恵を絞る。
【関連記事】 大手化学メーカー、構造改革の行方