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現実化する「2024年問題」…物流対策は万全か

現実化する「2024年問題」…物流対策は万全か

バローHDの物流センターでは長時間の待機がなくなった

物流、建設、医療などで例外的に認められてきた時間外労働の上限規制の猶予期間が月内に終了し、労働力不足が懸念される「2024年問題」が現実化する。運転手不足に拍車がかかる物流関連では各社が数年前から対応策を展開し、一定の成果を上げている。しかし人手不足は続く見通しで物流変革はこれからが本番。関連企業はどんな対策を打ち、今後どういった取り組みを進めるのか。物流会社、荷主企業、資材・機器サプライヤーの動きをリポートする。(編集委員・村国哲也、名古屋・江刈内雅史)

物流会社・セイノーHD長距離輸送、鉄道・船舶に

セイノーホールディングス(HD)は長距離の物流拠点間を混載で輸送する特別積合せ貨物運送(特積み)が主力。2024年問題を前に、子会社の西濃運輸(岐阜県大垣市)を中心に「輸送方法、荷役体制の見直しをバランス良く進めてきた」(神谷敏郎セイノーHD執行役員)。
※自社作成

18年4月に運行図表(ダイヤグラム)を導入し、距離に関係なく荷主ごとに定めていたトラックの出発時刻を目的地が遠い順に変更。運転手の待機時間が減り、受け入れ側の荷降ろし準備もしやすくなった。

輸送手段も多様化した。600キロメートルを越える幹線輸送の4割を鉄道や船舶などトラック以外に切り替えた。鉄道でトラック304台分、船舶で同11台分の運転手勤務を削減した。1日にトラック13台分あったトヨタ自動車の九州向けの補給部品も23年10月から鉄道輸送だ。また1台で2台分の輸送ができるダブル連結トラックも5コースで運行中だ。

運転と積み降ろし作業(荷役)の分離も進めた。1人の運転手で複数のトラックを担当。目的地到着後、運転手は荷降ろしを他に任せ、荷積みを終えているトラックで出発。荷役を合理化しやすく、運転手の数も減る。

積載効率向上にも注力する。福山通運とは共同配送で10年以上の実績がある。24年2月にはトナミホールディングス傘下のトナミ運輸(富山県高岡市)と金沢市、愛知県岡崎市で共同配送を始めた。

同業他社や異業種を含め物流の機能やインフラを共有する「オープン・パブリック・プラットフォーム」も提唱する。例えば23年10月に北大阪支店(大阪府茨木市)を九州への鉄道コンテナ輸送の中継拠点に変更。同業他社からの持ち込みも引き受ける。物流機能の需要と供給を仲介するシステム子会社のサービス「ハコベル」の普及にも力を入れる。

2024年問題は当面はクリアしたが、今後も人手不足は続き、脱炭素への対応を求められる。「業界全体でいかに効率を上げるか。当社が中核となり他社と手を組んで進めたい」と田口義隆セイノーHD社長は話す。

荷主・バローHD  積み降ろし場所、5分単位で予約

中部地区を中心にスーパーマーケットやホームセンターなどを展開するバローHDは、メーカーや卸から荷物を受け、仕分け直して店舗に配送する物流センターの改革を19年に本格化した。

まず19年3月から5月にかけて愛知県一宮市、同豊田市、岐阜県可児市の大規模な物流センターに、トラックの荷物積み降ろし場所(バース)に予約システムを導入した。以前は先着順で、朝8時の受け入れ開始を前日夜から待つドライバーもいた。平均待機時間は約90分。年間1000万円以上の損失と同社は試算した。

新システムでは荷降ろしの開始時刻や所要時間を5分単位で予約する。利用率は90%以上で平均待機時間は30分以内になった。現在は先着順のままの予約方法の最適化、到着時間が読めない混載便(特積み)専用バース、発注と予約のシステム連動も検討している。

同年に全物流センターで店舗発注から納品までのリードタイム延長にも踏み切った。午前中に来た発注分の納品を、従来の当日夜から翌々日に変更。需要が予測不能のため手配していた予備の食品やトラックを不要にした。店舗や営業担当の反発はあったが、「問題になる欠品はない。時間はかかったが理解は得られた」と上口隆一物流部長は話す。

業界慣習を乗り越え、食品を賞味期間の3分の1以内で納品するルールも2分の1に改めた。食品ロス削減のため大手スーパーやコンビニエンスストアで先行したが、「当社は物流(効率化)のため始めた」と上口部長。実際、返品用の物流は無くなった。

今後の課題は共同配送だ。「トラックの空き時間帯は他社も同じ。情報開示もしにくい」と難しさを認めつつ、試みを一部地域で始めている。また物流子会社を通じ、物流センター向けに商品を仕分けして出荷する「フロントセンター」も稼働した。「物流改革は新たなフェーズに入った」と上口部長。さらなる効率化に策を練る。

資材・機器メーカー 2段積み・段差解消で荷役効率化

物流会社や荷主の流通事業者などは2024年問題に関し大枠の対策を終えているが、荷物の積み下ろし(荷役)の効率化はまだ大きな課題として残る。例えば段ボールのじか積みではトラックから荷物を下ろすだけで運転手を2―3時間拘束し負荷も高い。荷役を効率化する物流関連の資材や機器のサプライヤーは販促活動を強化している。

2024年問題で受注が急増している岐阜プラスチックの「スリーブボックス」

物流パレット大手の岐阜プラスチック工業(岐阜市)は、メーカーから物流センターへの製品納入に物流パレットの採用を促す。フォークリフトを利用し積み下ろし時間を30分程度と短縮できる。1100ミリメートル角×高さ120ミリメートルで重量が6・7キログラムと従来品より1キログラム軽い軽量樹脂パレットも発売した。

物流パレットに壁やふたを後付けして物流を効率化する大型箱「スリーブボックス」の販売も好調だ。パレットのみの使用時と異なり2段積みができトラックの積載効率を改善できる。荷物を樹脂フィルムで巻くなどの固定作業も不要で梱包資材の廃棄もなくせる。「1月以降の受注は前年同月の2倍」と営業担当者。一回り小型の船舶・鉄道仕様も発売し、モーダルシフトの需要にも対応する。

テーブルリフトやコンベヤーといったマテハン機器を手がけるメイキコウ(愛知県豊明市)。2024年問題では「トラックヤード(荷物の積み替え場)の自動化や時間短縮が絶対に必要になる」(保賀誠一郎社長)との見通しのもと、5年ほど前からヤード周辺の自動化・省力化の機器の販売を本格化した。

その一つがシザーリフト「段差らくーだ」。倉庫の搬出入口やトラックの荷台の高さに合わせて油圧でテーブルを上げる。荷物を載せた台車をテーブルに乗せたら地面に下ろす。昇降はスイッチ操作ででき、段差で生じる力作業を軽減する。

段差の解消にはスロープを付ける方法もある。だが、台車を下り坂で転がすのは危険で、「(段差らくーだの)引き合いがすごく多い」(同)という。 同社はシザーリフトだけでなく、コンベヤーなどの各種物流機器を統合し、ヤード内の搬送作業全般を省力化するシステムを組むソリューション営業を展開中。膨らむマテハン機器需要の取り込みを図っている。

日刊工業新聞 2024年03月21日

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