照明、LED化に拍車…「一般用蛍光ランプ製造・輸出入」27年末禁止で懸念事項も
発光ダイオード(LED)照明器具の普及に向け追い風が吹いている。水銀に関する水俣条約第5回締約国会議(COP5)で一般照明用蛍光ランプの製造と輸出入が2027年末までに禁止されることが決まり、代替需要が見込まれるためだ。一方、原材料価格などの上昇で照明器具にも値上げの逆風が吹く。日本政府がストック(既設照明)で30年までにLEDなどの高効率な照明を100%普及させる目標を掲げる中、メーカーは価格に依らない差別化戦略に取り組む。(阿部未沙子、編集委員・大矢修一、同・安藤光恵)
品ぞろえ豊富、備え十分
LED化が加速しそうだ―。1月に開かれた日本照明工業会(JLMA)の賀詞交歓会ではこのような声が多く聞かれた。背景には23年に開かれたCOP5での決定がある。
決定について、パナソニックで照明を手がけるエレクトリックワークス社は「照明のLED化が注目される衝撃の大きい内容だ」とする。調査会社テクノ・システム・リサーチ(東京都千代田区)の太田健吾アシスタントディレクターは「(COP5での決定で)ダメージを受けるメーカーは少ないのではないか」とみる。
というのも、11年に発生した東日本大震災を機に節電意識が高まったことでLED照明器具への需要が拡大。JLMAによると23年4―12月分の出荷数量のうち、すでに99%以上をLED照明器具が占めた。照明メーカー各社はLED照明の品ぞろえを拡充してきており、LED化への準備はできている。
テクノ・システム・リサーチは27年のLED照明器具の出荷台数について21年比11・2%増の4800万台と予測。LED照明市場が急拡大したのは10年代で、新規参入企業も現れたことで価格競争が起きやすくなり、価格も下がっていった経緯がある。
「安さ」訴求は限界
しかし最近の値上げの波は照明業界にも及んだ。照明器具に使われるタングステンやソケットなど金属のほか、樹脂製の材料、物流費などの上昇が要因だ。JLMAの鹿倉智明専務理事は「値上げせざるを得ない状況」と話す。
19年の価格と、直近の価格を比べた改定率はアイリスオーヤマは平均約5―20%、パナソニックエレクトリックワークス社は同約10―20%、ホタルクスは同約10%のそれぞれ値上げとなった。東芝ライテックは施設照明器具で約15%の値上げとなり、22年から23年にかけてはLED照明器具など1万2000機種以上で価格改定を実施した。
アイリスオーヤマのBtoB事業グループメーカー本部省エネソリューション事業本部ライティング事業部の江藤優事業部長は「価格を改定したが、ライティング事業部として大きな影響は感じていない」といい、パナソニックエレクトリックワークス社も価格改定に伴う大きな影響はみられていないとしている。
ただ、ホタルクスの柳橋歩執行役員は「非住宅向けでは価格改定を受け入れられているが、住宅向けでは受け入れられていない」と指摘する。国内メーカーの製品よりも安価な海外メーカーの参入により「安さ」の訴求が困難になっている。
癒やし提供・カメラ搭載、付加価値向上急ぐ
メーカー各社はこれ以上の値上げの抑制に努める。パナソニックエレクトリックワークス社では新潟工場(新潟県燕市)などの製造拠点でモノづくりの整流化や内製化などに取り組む。
中国・大連工場でLED照明関連商品を手がけるアイリスオーヤマも価格維持のための取り組みを活発化する。江藤事業部長は「生産設備の改善や部品の共通化などを一段と進めている」とし、国内の物流拠点の拡充も図る。
ほかにも東芝ライテックは設計や部材の見直し、製造効率の改善、そして物流コスト削減などに注力。またホタルクスは、搭載部品の見直しや原価低減に努める。
ただ価格競争力の維持には限界があり、各社は付加価値を向上した製品をそろえる。パナソニックエレクトリックワークス社は、働く人の活動に必要な部分だけ照らしリラックスや集中力向上を図り、企業の従業員満足度の向上と省エネルギーを両立する「メリハリ照明」を展開。ホタルクスの「HotaluX VIEW(ホタルクス ビュー)」は照明にデザインを施し、人が癒やされる空間をつくる。
さらに東芝ライテックはカメラ付きLED照明「ViewLED(ビューレッド)」を展開する。天井にある照明にカメラを搭載したことで死角が少ない画像を撮影できる。録画や保存のほかにも、撮影した画像を分析するサービスも提供する。
またアイリスオーヤマは照明事業と社内の関連事業部とを連携。「省エネソリューション」事業としてエネルギー価格高騰による節電需要をターゲットにLED照明の普及に取り組む。空調制御事業などとの協業を視野に入れる。
高効率照明、30年100%へ 駆け込み工事増加、業者不足を懸念
JLMAは1月時点のストックに占めるLEDなどの高効率照明の割合を58・8%と推測。日本政府は30年までに100%にする目標を掲げているが、その達成にはまだ遠い。
LED照明への切り替えに伴う工事が、普及の壁として立ちはだかる。テクノ・システム・リサーチの太田氏は「(30年の目標に)間に合わせるのは難しいのではないか」と指摘。住宅の玄関、トイレなどにある照明の取り換えが遅れると分析する。さらに柳橋ホタルクス執行役員は、特定の時期に交換需要が高まることで「工事に関わる業者が足りず、施工ができない事態が発生するのではないか」と懸念する。
もちろん各社も対策を打つ。アイリスオーヤマは商品開発から施工、アフターサービスまで一気通貫で顧客を支援する。またパナソニックエレクトリックワークス社は作業量の削減や施工時間短縮など負担を軽減する省施工製品「ハヤワザリニューアル」を展開する。
加えて長期使用もストックのLED化が進まない一因だ。10年をめどとした交換が目安といわれるが「壊れてから交換するケースもある」(JLMA)のが実情だ。
懸念事項はほかにもある。医療用途などで使われる特殊用の蛍光ランプへの影響だ。27年末に製造や輸出入が廃止されるのは一般照明用。ただ一般照明用と特殊用途で使うランプで共通する部品があるといい、一般照明用の製造が廃止になることで部品調達に影響が及び、特殊用途の製造が困難になる可能性は否定できない。
こうした問題がありながらも鹿倉JLMA専務理事は、COP5での決定に関し「LED化推進の『切り札』になるかもしれない」と期待する。照明メーカーにもLED需要増を見据えた取り組みの強化が求められる。
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