ニュースイッチ

消防車づくりロボットに託す。モリタHDが溶接自動化を模索

消防車づくりロボットに託す。モリタHDが溶接自動化を模索

ATIセンターの溶接ロボット。最適な溶接条件を阪大とともに研究する

モリタホールディングス(HD)は消防車の製造と消火にロボットを生かす研究を始めた。消防車は多品種少量のため、熟練技能者による製造が中心となっている。少子高齢化による技能者不足に備え、信頼性が高く安定した品質の消防車づくりをロボットに託す。大阪大学の支援を得て、溶接を自動化する最適条件や評価技術を調べる。一方で消火ロボットも開発し、屋内に入るのが難しい物流センターなどへの放水で実用化を目指す。(大阪・田井茂)

ATIセンターの溶接ロボット。最適な溶接条件を阪大とともに研究する

「モリタHDのグループ全体で消防技術の研究開発(R&D)を最適化できる体制が整った」。森本邦夫取締役常務執行役員モリタATIセンター長は、2023年7月に開設したR&D拠点のモリタATIセンター(大阪府八尾市)の役割をこう強調する。グループの事業会社で分かれていたR&Dを集約し、防災事業などの高効率で迅速な開発を図る。ロボット導入も主要なテーマの一つだ。

国内外有数の総合消防技術拠点であるATIセンターには、溶接機と接続しロボットを設置した。安川電機製の6軸ロボットで、スペースが狭い箇所でも多くの軸を動かし溶接できる。溶接用の自動テーブルも設けた。消防車の生産工場には直線に動くロボットしかなかった。主に溶接するのははしごを伸ばせる、はしご車。はしごの鋼材に超高張力鋼パイプを使うと1本に200カ所超の溶接が必要になる。入熱量や電圧、周期、速度、角度などを多様に変え、最適な溶接条件を探る。ロボットは作業が同一で再現性に優れ、溶接後の耐久試験の信頼性も高い。森本取締役は「これまで技能者が技術を評価していたが、人によりバラついていた。技能者のいる工場でしか検証できなかった技術がATIセンターで可能になり、利便性は高い」と説く。

遠隔操作型の小型電動式走行消火ロボット。人に代わり屋内に入り放水する

はしごを自動で溶接できれば省人化と生産性向上の効果は大きい。研究成果を工場で実践する考えだ。曲げて溶接する従来の鋼板から、曲げ加工が不要で溶接箇所も少なく歪みにくいパイプへ、鋼材を置き換えていく好機としてもロボットを導入する。ただ、はしご車は多品種少量で年産約50台と、ロボットに投資する費用対効果の拡大が難しい。「現状だと100%自動化はまだ先になる」(森本取締役)。頼りにするのは、ATIセンターにサテライトオフィスを設けた大阪大学接合科学研究所。同研究所に要員を常駐させ、博士号も取得させた。阪大の施設でも共同研究し高度な学術的知見を受け、技能者の経験や勘をロボットに継承・発展させようとする。

消火では人が入れない場所での作業や人命を守る技術として、遠隔操作型の小型電動式走行消火ロボットを試作。23年6月の「東京国際消防防災展2023」に出品した。電子商取引(EC)の拡大で大規模な物流センターが急増し、火災も相次いでいる。物流機器や大量の商品で空間が狭く、屋外から注水するほかなく消火が難しい。ロボットを進入させ炎上地点へ的確に放水し、被災を抑える考えだ。

日刊工業新聞 2024年3月12日

編集部のおすすめ