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ビジネス書では教えてくれない!?ビジネスの現場で「本当に」使える知識とは

本のホント#17 「ビジネスマン超入門365」

「会社の飲み会は無礼講ではない」、「「勉強になります!」はどんなときでも使えるスーパー返事」―ビジネスの現場ですぐに使えるユニークかつ実践的な知識が、イラストとともに日めくりのように並ぶ書籍「ビジネスマン超入門365」。著者である林雄司氏は、2002年に「デイリーポータルZ」を立ち上げ、以降3つの会社を経ながらも同サイトの編集長として運営や記事執筆をはじめ、幅広い事業に携わってきた。自身の経験と知恵をふんだんに盛り込んだ同書について聞いた。(聞き手・昆梓紗)

会社で家みたいなことは結構起きている

―会社員生活にすぐに役立つ知識が365個掲載されていますが、アイデアはどのようにして増やしていったのでしょうか。
 この本の前身で「ビジネス日めくりカレンダー」を製作したので、その内容や、デイリーポータルZの記事から引用したものもありますが、どれも会社員生活を通じて自然と蓄積されていったものです。

 新卒でIT企業に入り、ずっとIT業界で働いてきました。とはいえ、その頃は90年代だったのでまだいわゆる「昔ながらの会社」という雰囲気でしたね。同書にも書きましたが、「弁当の食べ残しはきちんと捨てないと匂う(5月9日)」みたいなことを上司に注意されるような。会社ってビジネスの現場なのに、急に家みたいなことが起きるのがたまらなく面白いと思っています。

―「離れた席の人がみかんをむいただけでわかる(4月24日)」とか、思い返すと会社で家っぽさが出てしまう場面に遭遇する経験は結構ありますね。
 会社での出来事の80%くらいはそういったことが占めているんじゃないかと思っています。ビジネス書が好きでよく読むのですが、ビジネス以外のコミュニケーションやスキルも必要なのに、そういったことがまとまっている書籍は意外とないので、とにかく役立つ本を作ろうと思いました。

―本書の中でも特に役に立ったと実感する知識はありますか。
 「「勉強になります!」はどんなときでも使えるスーパー返事(4月5日)」「話が分からなくなったら相手の目を見る(7月26日)」は結構使いましたね。攻めの姿勢で乗り切るという。後輩にも教えたところ、やたら目を見て相槌を打ってくることが多くなったので「これはわかってないな」とバレてましたけど。

 また、「「こんど飲みましょう」はただの挨拶なのでスケジューリングしなくてよい(5月31日)」。私自身が「こんど飲みましょう」と言われたらいちいちスケジューリングして飲み会を開催していたんですが、いまいち盛り上がらないことも多くて…30代中ばくらいで「スケジューリングしなくていいんだ!」と気づいたら楽になりました。同じように「儲かってますか?」という社交辞令にも真面目に答えていて、相手に「そこまで言わなくて大丈夫です」と言われたこともありましたね。こういう社交辞令には意外と気づいていない人も多いようです。
 「会社の飲み会は無礼講ではない(4月3日)」など、飲み会はなかなかトラップが多いので、若者には気を付けた方がいいと伝えたいです。

―ここ数年はコロナ禍で飲み会の機会が少なかったですが、最近は復活してきている職場も多いと思うので、会社飲み会で役立つ知識は重宝されそうですね。
 コロナ禍で一度消滅した会社ならではの習慣も多そうですが、また戻ってきていそうですね。一旦なくなったものが復活すると、コントというか、マンガみたいな滑稽さが出てきそうです。

―たしかに、一度なくなったことで客観視できてしまうというか、冷静になってしまいそうですよね…。

―ウェブメディアの運営や取材を通じて、さまざまな企業を訪れた経験も織り込まれています。
 とある大企業に打ち合わせに行ったところ、壁がホワイトボードになっているとてもおしゃれな部屋だったんですが、一部の壁には「ここには書かないでください」という注意書きがありました。「ホワイトボードに油性マジックで書いた跡はどこの会社の会議室にもある ホワイトボードになってないただの壁に書いてしまうこともある(5月15日)」に掲載しましたが、企業規模に関わらず、どんな企業にもそれぞれの滑稽さや習慣があるなと思います。

―どんな企業であっても、その環境で円滑に働くための知恵というか、しきたりみたいなものがあるところに人間らしさを感じますね。

イラストに驚きも

―本書はすべての日付にヨシタケシンスケさんのイラストが入っていることも大きな魅力です。
 作成した文章をヨシタケさんにお送りして、イラストをつけてもらっていました。ただ、(でき上がってきた)ヨシタケさんのイラストを見て、自分が考えていたことがそのままイラストになっている、と驚いたことが何度もありました。
 例えば、「社長秘書はドラマだとセクシーだけど本物は気さく(5月27日)」のイラストは本当に私の知っている社長秘書にそっくりで、何でわかったんだろうとビックリしましたね。また、「会社に一台ぐらい印刷できたりする高いホワイトボードがあるがたいてい壊れている(9月2日)」のホワイトボードも、まさにこれでした。私からはイラストに関する指示は出しておらず、ヨシタケさんにすべてお任せしていたのですが…。イラストにたまに添えられているヨシタケさんのコメントも秀逸でした。
 「“私とヨシタケさんの人格が合わさったような先輩”がこっそり残した引継ぎノート」というようなコンセプトの本になりました。

―365の知識のほかにコラムも掲載されており、「役職早見表」「手土産OK・NGリスト」などは意外と誰も教えてくれない知識だなと思いました。
 コラムの中でも「今日から使えるビジネス英会話」は通訳なしの英語セミナーに登壇したときに作りました。英語は喋れないんですけど、オファーを受けたとき「いい機会だし、まだ先だから勉強して喋れるようになろう」と思っちゃったんですよね。でも結局勉強しなくて、焦って直前に作ったリストを今回コラムに入れました。
 そのセミナーは、登壇者3人の英語でのディスカッションもあったんですが、全員日本人で、聴講者も日本人。でも全員が英語で喋る、っていう。なのでたまに英語が分からないと日本語が出ちゃったりしていました。あとで振り返ると、コントでありそうなシチュエーションだなと思いました。

―2024年には独立し、経営者となりました。立場の違いから見えるものは変わりましたか。
 2024年に独立し、それまで携わっていたウェブメディアを事業譲受して代表取締役と編集長をやっています。同書を執筆していた時はまだ会社員だったのですが、経営者となった今、書いたことを見返してみると「こんな好き勝手なこと言って…」と若干腹が立つこともありますね(笑)
 前の会社を辞める直前に納会があったんですが、昔ながらのビンゴ大会をやっていて、景品がちいかわのスリッパとかだったんですけど、景品を選んできた人の苦労とか、絶妙なセンスとか最高だなと思って、なんだかもうこういう「会社」の感じは味わえないのか…とちょっと泣きそうになりました。

―今後挑戦してみたいことは。
 「会社みたいなカフェ」をやってみたいですね。会社勤務のいいところだけ味わえるような。オフィスっぽいところで、仕事をしながらお茶も飲めて、たまに上司っぽい人が話しかけてきたり、コピーを頼まれたりするみたいな。会社においてコピー機って絶対トラブルを起こしますよね。紙が詰まってじゃばらになったり。同書にもコピー機が何度も登場しています。
 似たような感じで、「会社飲み会体験」も面白そうだなと。参加者が部長、平社員など役割を決めて、それに応じたふるまいをする。料理を取り分けている平社員役に上司役が「そんなやらなくて大丈夫だよー」って言ったり。それで30分くらいで役割シャッフルして、いろんな役割を体験できるみたいな。日光江戸村のような、会社のイマーシブ体験のような感じですね。まずはデイリーポータルZの記事でやってみようかなと思います。

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昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
テレワークが普及し、出社の必要性が問われて数年。「会社っぽさ」がしがらみのように感じる人も増えているように思います。でもふと会社を見まわしてみると、複数の人間が円滑に生活や物事を進めるための集合知のようなものに溢れており、意外とばかにできないものだな、と林さんのお話を聞いて感じました。ビジネスの現場に限らず、人間関係をスムーズにしてくれる知識とユーモアは、持っていて損はないと思います。

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