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北陸新幹線「金沢―敦賀」延伸、地元が期待「100年に一度」のチャンス

北陸新幹線「金沢―敦賀」延伸、地元が期待「100年に一度」のチャンス

福井県と首都圏が直結するほか、北陸と関西圏、中京圏とのアクセスも向上する(敦賀駅のホーム)

新幹線がついに福井県に乗り入れ―。JR西日本とJR東日本が共同運行する北陸新幹線が16日、金沢―福井県敦賀間で延伸開業する。「北陸新幹線の新ステージで(今年は)北陸が注目される年になる」(JR西の長谷川一明社長)。福井県と首都圏の直結することに加え、北陸と関西圏や中京圏のアクセス向上による経済交流や観光の活性化が期待される。北陸には1月の能登半島地震の被災地もあり、延伸開業は復興の原動力としても期待される。(大阪・市川哲寛、京都総局長・松中康雄、金沢支局長・尾碕康平)

経済効果・地域間交流に期待

北陸新幹線は1973年に計画決定した整備新幹線の一つで今回の延伸は、97年の群馬県高崎―長野間、2015年の長野―金沢間に続く措置となる。金沢―敦賀間では小松、加賀温泉、芦原温泉、福井、越前たけふが停車駅となる。福井市の九頭竜川橋梁(きょうりょう)は天然記念物の生息地に配慮して鉄道と道路の一体橋梁とした。

金沢までの延伸以降の約8年間で大雪での運休は2日間のみという実績を裏付けとしたノウハウを元に、スプリンクラーなど複数の雪害対策で万全を期す。

新ターミナルとなる敦賀駅は高さ37メートル、コンコースの長さ200メートルでともに新幹線駅では日本一となる巨大な駅舎となった。3階に新幹線ホーム、1階に在来線特急ホームを設けた上下乗り換え方式を採用した。

東京―敦賀間は最短で3時間8分で結ばれ、現行より50分短縮となる。東京から東海道新幹線で滋賀県米原を経由するルート2時間50分には及ばないが、直通の「かがやき」「はくたか」を計14往復運転し、乗り換え不要で利便性が高まる。また「(ルート上にある)群馬や長野、新潟など上信越と北陸の結びつきが密接になる」(長谷川社長)と地域間交流の活発化も期待する。

関西圏や中京圏からは敦賀で乗り換えが必要になるが、所要時間は大阪―富山間で29分、名古屋―富山間で23分短縮される。敦賀―富山間で19往復運転する「つるぎ」のうち18往復を敦賀で在来線特急と接続させて利便性を確保する。さらに「富山、金沢、福井の県庁所在地が約20分ずつで結ばれ、北陸が一体化する」(同)と期待する。

長野―金沢間延伸時は富山県、石川県で企業立地が増えたり、本社や研究開発拠点を移転・拡充したりする動きも目立ち、1年間で利用者数は約3倍、関東―北陸間の旅客数は2倍以上に増えた。今回の延伸でも「初年度は開業効果で福井を訪ねる人、福井から他地域へ行く人が増え、ビジネスや観光が活性化される」(同)とし、日本政策投資銀行は福井県に約309億円の経済効果を見込む。

敦賀駅舎は新幹線駅としては高さ、コンコースの長さで日本一を誇る

福井県は恐竜博物館や一乗谷朝倉氏遺跡、東尋坊など観光スポットが点在する。JR西は観光周遊型のクロスリアリティー(XR)バスを6月に運行開始する。また10―12月のJRグループのキャンペーン「北陸デスティネーションキャンペーン(DC)」に合わせ、新たな観光列車「はなあかり」を敦賀―兵庫県城崎温泉間で運行する。旅行会社も同時期に北陸関連商品を集中的に投入する予定。コロナ禍後の観光客争奪戦が全国で展開される中、北陸の魅力を伝えてリピーターを呼び込むことが経済効果の持続につながる。

運行事業者のJR西は鉄道施設利用料を払う必要があり「延伸で利益が大幅増とはならないが、鉄道の旅がクローズアップされて鉄道利用増につながる」(同)と在来線も含めて経営にとってプラスのインパクトにつながるとする。

北陸新幹線は敦賀までの延伸で全体の約8割の完成となり、大阪府まで延伸して全線開業となる。交流人口が全国で1910万人増、経済波及効果は全国で2700億円と試算されている。

ただ福井県小浜、京都を経由して新大阪に至る大まかなルートは決まっているが、具体的ルート決定や工事財源の議論はこれからで、完成は30年中頃と予想される。長谷川社長は「北陸新幹線が大阪まで伸びたところで『第2の国土軸』となり、効果を最大限発揮する。いち早く結ばれることを強く望む」と力を込める。

福井県 誘客・誘致に熱

敦賀延伸に合わせ、JR福井駅前では観光客を恐竜が出迎えるほか、米マリオット系ホテル(奥)も開業する

首都圏との交流人口増加や経済活性化を見込む福井県は「100年に一度」と表現するチャンスを最大化できるのかが問われる。県はJR福井駅前に実物大の「ティラノサウルス」ロボットを新設。化石発掘が多い「恐竜王国」を前面に打ち出し、誘客に熱が入る。

観光地が県内に点在する課題に対し、バスやタクシーなどの地域交通の利便性向上の取り組みが進む。カーシェア事業を昨秋始めたコインパーキング管理運営の日本システムバンク(福井市)の野坂信嘉社長は「多くの会社で協力し対応しないといけない」と話す。

同県は宇宙関連の産業振興にも熱心で、「宇宙業界はベンチャー含めて関東に多い。連携しやすくなる」(繊維大手幹部)と歓迎。ある機械大手幹部は「関東への出張や関東からの来社アクセスが良くなる」と期待する。

一方、直通特急がなくなり、乗り換えの手間が増える関西・中京圏との往来で懸念の声も。臨海部の工業団地も走るタクシー運転手は「喜んでばかりはいられない。関西企業からは不便になり福井から離れないか心配」と一抹の不安を吐露する。

石川県 2駅新設、県内全線開業で需要喚起

今回の北陸新幹線の延伸開業で石川県内では新たに「小松駅」「加賀温泉駅」が誕生する。新ダイヤはこれら二つの駅の特性に配慮して設定した。最速の「かがやき」は、小松駅でビジネス利用が多く見込まれるため、朝晩にそれぞれ1往復が停車し、通勤や出張での利便性を高めた。一方、主に観光客の利用を見込む加賀温泉駅は発着を日中に集中させた。石川県は県内全線開業を「第二の開業」と捉え、既存の金沢駅を含め交流人口の増大に期待する。

ただ、しばらくはイレギュラーな状況が続く。能登半島地震の発生で観光客が激減した宿泊施設は予約が戻りつつあるものの、現在は被災者の2次避難所としての役割も果たしている。加賀温泉の旅館協働組合などで構成する「加賀温泉郷協議会」は避難者と観光客の双方の受け入れは可能と判断し、延伸後も避難者の受け入れを続ける方針を表明した。

当面は被災者支援を継続しながら、観光需要を喚起し受け入れていくという難しい舵取りを迫られる。

日刊工業新聞 2024年03月15日

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