輸送サービス、温室効果ガスで選ぶ時代がやってきた
物流各社、課題は収益化
輸送サービスを温室効果ガス(GHG)で選ぶ時代がやってきた。事業活動に関連する間接排出(スコープ3)の削減に取り組む企業が増えており、物流各社はこのニーズに対応するサービスを新設している。脱炭素燃料や排出権取引などの利用で排出量を削減する輸送サービスのほか、経路別に排出量を比較できる検索サービスが登場している。(梶原洵子)
GHG排出量の削減は自社努力や供給網内の事業者と連携した削減(インセット)、排出権取引による排出量の相殺(オフセット)がある。航空分野では持続可能な航空燃料(SAF)によるインセットも可能だ。複数の物流企業がSAFを利用し、世界最大手の独DHLエクスプレスのカーボンインセット輸送「ゴーグリーンプラス」は日本ですでに約1500社に採用されている。
一方、海上輸送では脱炭素燃料が試験段階のため、オフセット輸送サービスが広がる。日本郵船子会社の郵船ロジスティクス(東京都品川区)は日系物流企業で初めて22年4月にオフセット輸送サービスを開始した。
NIPPON EXPRESSホールディングス(HD)は複数の輸送モードで排出削減を進めており、「顧客からの脱炭素の要求は高まっており、ソリューションを強化する」(岸田博子執行役員)と手応えを感じている。
宅配便分野では、ヤマト運輸が電気自動車(EV)などの導入による自社の排出削減と排出権取引により、宅急便など三つのサービスの排出量を実質ゼロにした。22年度の排出分から開始し、50年度まで継続する。交通分野でも、JR東海とJR西日本が二酸化炭素(CO2)フリー電気の利用で排出量を実質ゼロにした新幹線乗車券の販売を法人向けに4月から開始する。
また、三菱倉庫は米アマゾンウェブサービス(AWS)と連携し、GHG排出量の可視化と輸送経路検索を行えるシステム「エミッション・モニタリング・カーゴ・ルート・ファインダー」の提供を始めた。出発地と到着地、物量を入力すると、船舶・航空機・鉄道を組み合わせた現実的な複数の輸送経路と排出量を提示する。CO2以外のGHG排出量も算出する。
「直線距離ではなく、荷揚げ場所なども反映した正確な経路でGHG排出量を算出する」(木村宗徳取締役常務執行役員)ことが特徴で、同社サービスの利用により排出量の違いで輸送経路を選べるようになる。輸送経路を比較検討した後、そのまま運賃見積もりや予約ができる機能を追加実装する予定だ。
今後、物流各社にとって、GHG排出削減のコスト回収や収益拡大への貢献が重要な課題となる。各サービスで考え方は違い、JR東海などのCO2フリー新幹線乗車券はCO2フリー電気の購入に伴う追加料金が発生するが、郵船ロジなどは追加費用なしでカーボンオフセット海上輸送を提供する。排出削減コストを物流側で引き受けつつ、受注を増やす考え方もある。
これまで投資が先行していた排出削減の取り組みが各社の事業競争力にどこまで影響するか、注目される。