「空飛ぶクルマ」安全運航に商機、関西の大学発スタートアップの技術力
「空飛ぶクルマ」の安全運航に、関西の大学発スタートアップが商機を見いだしている。京都大学発のメトロウェザー(京都府宇治市)は赤外線レーザーによる風況計測装置を手がける。大阪市内の建築物に装置を設置し、観測体制を拡充中だ。近畿大学発の光トライオード(三重県四日市市)は特殊な反射材を機体や乗客に取り付け、事故が起きた際にすぐ救助できる仕組みを開発する。各社の取り組みを取材した。(大阪・森下晃行)
メトロウェザー 突風・乱気流を瞬時に可視化
2025年の大阪・関西万博を機に国内や海外の機体メーカー、運航事業者が空飛ぶクルマの実用化を目指している。各社は安全性の審査も含む型式証明の取得に動いているが、移動手段として普及するには、人々が安心して乗れるかどうかがやはり重要だ。
2点間の乗客輸送などの場合、ヘリコプター向け運航管理システムの応用が現実的と専門家は見る。ただ、将来的には電動といった特性に合うシステムの導入も必要になる。
「空飛ぶクルマは航空機より非力で風の影響を強く受ける。風をよく読み、安全なルートを見極めて飛ぶことがとても大事だ」。メトロウェザーの古本淳一社長はこう説明し、風況計測装置「ドップラーライダー」の必要性を説く。
同装置はレーザーを照射し、大気中に漂うチリの散乱光を捉えることで風速や風向を調べる。突風や乱気流をリアルタイムに可視化することで、事故の起きやすい離発着時などに情報を活用できる見込みだ。
同社の装置は低出力のレーザーを使う。ノイズ混じりでも信号をうまく取り出す「ソフトウエアがコア技術」(古本社長)。出力を抑えたことで他社製より安価かつ小型にでき、さまざまな場所に置ける。空飛ぶクルマ以外にも風力発電や不審な飛行ロボット(ドローン)の監視など活用方法は幅広い。
メトロウェザーは複数のドップラーライダーを使い、万博会場上空を含む周辺の風の流れを可視化する計画を進める。大阪市住之江区の複合商業施設「アジア太平洋トレードセンター(ATC)」屋上に第1号機を、大阪市北区の商業施設屋上に2号機を置いた。
季節にもよるが、観測結果からは「地面やビルの影響で風が偏って吹いている場所があることがわかる」と古本社長。今後も増設し観測範囲を広げる。
光トライオード 再帰性反射材にQRコード
安全なルートを調べて飛んだとしても事故が起きる可能性はある。米空軍輸送機「オスプレイ」の屋久島沖墜落事故は記憶に新しい。空飛ぶクルマも海上を飛ぶ場合があり、墜落に備えた救助方法の整備は欠かせない。
光トライオードは道路標識などに使う再帰性反射材で課題解決を目指す。乗客・運航情報を2次元コード「QRコード」化し、反射材に印刷したものを機体や乗客の救命胴衣に取り付ける。
機体や乗客が海上に落ちると上空500メートルから航空機でレーザーを絨毯(じゅうたん)的に海面へ照射する。反射強度をマッピングし、機体や乗客を自動的に見つける仕組みだ。同時にQRに含まれる情報も捉えられる。
一般的には目視やレーダーで捜索するが、機体や乗客が海中に沈んでしまうと捉えられない。レーザーは水深数メートルまでなら反射を捉えられるため、より効率的に探すことができるという。
魚に反射材を取り付けて300×250メートルの池に4匹放流し、捜索する実証実験を行ったところ、水深1・6メートルまでは位置をしっかり特定できた。海中深くに沈んだ機体は捉えられないが、反射材付きの救命胴衣で浮いている乗客であれば発見の可能性は高まる。
レーザー搭載の航空機で地形を測定する技術は既に確立しているため、技術的な信頼性が高いのもメリットだ。将来的には人工衛星から探す仕組みも構築し、航空機を飛ばすより迅速な救助体制を目指す。「自転車でヘルメットを着けることが推奨されるのと同様、こうした安全管理が当たり前になるようにしたい」と光トライオードの前田佳伸社長は力を込める。