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トヨタ「クラウン」開発責任者が語る、新型セダンで追究したモノ

【ミッドサイズビークルカンパニー MS製品企画ZSチーフエンジニア 清水竜太郎氏】

「フラッグシップ(旗艦)らしいフラッグシップ」に。トヨタ自動車の旗艦ブランド「クラウン」の16代目は、スポーツ多目的車(SUV)とセダンの要素を併せ持つ「クロスオーバー」やワゴンタイプなど計4車種を展開するが、このうち王道のセダンも開発し提供を始めた。

新型クラウン・セダンのコンセプトは「ニューフォーマル」。車体を横から見るとフロントからリアを一直線に結べる。水平で伸びやかなデザインに仕立てながら、縦の意匠も採用し「次世代の正統派セダン」の形状を追求した。

内装はフラッグシップ車にふさわしく、質感にこだわった。木目調のパネルや60色を超える間接照明などを採用。ショーファーカー(運転手付きの車)としての利用も想定しており、後席の快適性向上のためにリクライニングやマッサージ機能などを搭載し落ち着いた空間を演出する。パワートレーン(駆動装置)は2・5リッターハイブリッドシステムと燃料電池(FC)システムを用意した。

居住性だけでなく、走りにも磨きをかけた。初代クラウンから代々受け継いできた「大切な人に快適に乗ってもらいたい」というクラウンオーナーの期待に応えた。オーナーが運転していても楽しく「全席快適」「全席特等席」をイメージ。乗り心地と静粛性を両立し、クラウンを乗り継いだお客さまに「やはりクラウンだね」と言われることを目指した。

16代目にして初めてエンジンを搭載せず、電気で100%動くクラウンを実現した。電気自動車(EV)ではなく水素を活用した燃料電池車(FCV)であることがミソ。水素社会やカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に向けたメッセージでもある。FCVは「MIRAI(ミライ)」の機構を採用した。ホイールベースは後席の居住性を確保するために80ミリメートル広げたほか、電子制御サスペンションなども搭載し、フラッグシップとして快適性能を引き上げた。

クラウンで大事にしていることは「革新と挑戦」のスピリット(精神)だ。駆動方式や形に決まりはない。歴代の開発責任者も時代に沿ってお客さまのことを真剣に考え、「もっといいクルマづくり」に取り組んできた。固定観念に縛られることなく、あらためてセダンを再定義する機会をいただいた。新型クラウン4車種のうち最も早く発売したクロスオーバーに興味を持ったお客さまも多かったが、「セダンを待ちたい」という根強い声もあった。

【記者の目/顧客拡大で「群戦略」狙い的中】

新型クラウン・セダンの受注を年齢層別で見ると20―30代が1割、40―50代が4割、60代以上が5割という。20―30代の購買も一定数あり、「高収入のお父さんの車」というイメージを脱し、幅広い世代に受け入れられる高級車へと転換している。トヨタ自動車は近年、高いブランド力を持つ代表車種で車型ラインアップを広げる「群戦略」に取り組む。クラウンでは顧客層の拡大につながっており、狙いが的中した形だ。(名古屋・川口拓洋)


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日刊工業新聞 2023年12月18日

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