トヨタ「新型センチュリー」生産開始、「匠の技」駆使する専用組み立てラインの全容
「トヨタ」とも「レクサス」とも違う、最高級車「センチュリー」というブランドを継承し進化させ続ける―。トヨタ自動車はこうした思いを持ち、旗艦モデルの最高級車であるセンチュリーの新型車の生産を田原工場(愛知県田原市)で始めた。専用組み立てライン「タハラ・センチュリー・クラフツマン・工房(TCCK)」では約40人が「匠の技」を駆使する。日本のモノづくりの力を遺憾なく発揮し、世界の最高級車市場に挑む。(名古屋・川口拓洋)
「センチュリーは特別な車だ」。トヨタの豊田章男会長は強調する。センチュリーは1967年に国内最高級車を目指し発売した。その名称は、トヨタグループ創始者である豊田佐吉翁の生誕100年を記念し付けられた。2月に亡くなった豊田章一郎名誉会長が開発を率い、実際に使い続けて進化をけん引してきたことでも知られる。
豊田会長は「トヨタは国内で年間300万台の完成車を製造し技能を蓄積しているが、その中の『選抜隊』がセンチュリーを作る。タクト(1工程の所要時間)は量産車では秒単位。センチュリーは5時間だ」と話す。
「シュイーン」と軽快な高音が聞こえるのは、新型センチュリーを製造する田原工場の磨き工程だ。塗装成形部ではフロント・リアのバンパーやロッカーモールなどを手がける。樹脂のペレットを材料に、金型で成形しロボットで塗装。他の部品と組み付け、組み立てラインに送る。
金型による樹脂成形で切っても切り離せないのが「パーティングライン(PL)」と呼ばれる金型の合わせ部分。バリのような微細な引っかかりが生まれてしまう。これを匠の技術者が手作業で取り除く。「0・2ミリメートルのPLを、10分の1の0・02ミリメートルにする感じ」と説明するのは塗装成形部の技術者。「粗く削る」「細かく削る」「仕上げ」の3種類の研磨材により、指でなぞっても引っかかりのないバンパーにする。
塗装後の磨き工程では鏡のようなボディー表面に仕上げる。トヨタの高級車ブランドであるレクサスの車種でも、バンパー表面を念入りに蛍光灯で照らすと微妙な歪みが見受けられるが、センチュリーは肉眼では確認できない。表面の粗さを数値化する機械で測ると、一般的なトヨタ車は「50」でレクサスは「30以下」だが、センチュリーは「10以下」とさらに厳しい基準で設定している。
ただ、ここで満足しない。磨き工程の技術者は「お客さまの声を聞いて車両にフィードバックする。一緒に車とブランドを作る」とさらなる進化を見据えている。
トヨタにとって重みを持つ車で、豊田会長は新しくスポーツ多目的車(SUV)型の追加を決めた。
既存のセダン型では章一郎名誉会長が後部座席に乗って気付いたことを、技術者に事細かに伝える伝統があった。豊田会長は「私も引き継ぐ」と継承の決意を語る。
日本が世界に誇るセンチュリーブランド。装いと製造拠点を新たに歴史と物語を背負い、未来に向けてエンブレムの鳳凰のように羽ばたき始めた。
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