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学術研究論文のOA促進、大学図書館連合が世界最大の学術出版社と転換契約した意味

学術研究論文のOA促進、大学図書館連合が世界最大の学術出版社と転換契約した意味

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大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE=ジャスティス)とオランダの大手学術出版社エルゼビアは、学術研究論文のオープンアクセス(OA)促進に向けた転換契約の提案に合意した。JUSTICE会員の大学図書館のうち57大学からなる交渉チームが、同社との議論を経て日本での枠組みを構築した。転換契約は国内大学とワイリー、シュプリンガーネイチャーとの間で始まっており、これで大手3社が出そろった。

転換契約は出版社に対して大学図書館などが払ってきた論文雑誌購読料を、研究者が払う論文掲載料(OA出版料、APC)へシフトし論文を無料で社会発信することを認める流れに乗ったものだ。購読とOA出版を組み合わせることで、大学・研究者が負担する金額を低くした転換契約を結び、大学のニーズを満たす出版ビジネスに変える取り組みだ。

合意した転換契約の実施期間は2024年から3年間。今後は提案をベースに、希望する大学が個別に同社と転換契約を結ぶ。交渉参画大学を含む約140大学が関心を示している。

同社は研究・医療分野の出版・情報分析を手がける。ランセット、セルなど2800誌以上の電子ジャーナル、4万6000タイトル超の電子書籍などを刊行している。JUSTICEは国公私立大学における学術情報の安定的な提供を主テーマに活動している。

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日刊工業新聞 2023年10月20日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
世界最大の学術出版社、エルゼビアと日本の大学グループが転換契約の合意にこぎ着けた意味は大きい。すでに2位、3位の出版社とは進み出しており、同社との関係に注目が集まっていた。この件の発表から間をおかず、「東北大は(この合意に基づき)24年からの実施で契約」「エルゼビアはドイツでも転換契約の合意をまとめた」とのリリースが出ている。さらに19日、内閣府CSTIの有識者会議ではその先をにらみ、「論文掲載と同時の即時公開(大学リポジトリなどの活用)」の提案をまとめている。これから数年間は本当に、目が離せない状況が続きそうだ。

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