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大学が費用負担抑えながら研究者支援、東工大「論文誌の転換契約」仕組み変更

東京工業大学は学術論文雑誌の電子版について、購読料を論文掲載料(APC)に転換する契約に関し、研究者(著者)がAPCの一部を負担する仕組みに変更した。これまでは全額を東工大が負担していた。著者の負担額は、大手出版社シュプリンガーネイチャーの対象雑誌などに掲載する場合で1論文当たり6万円。大学が費用負担を抑えながら研究者を支援する、持続可能なモデルとして注目される。

転換契約は論文出版社に大学図書館が購読料を払う従来の方式から、研究者がAPCを払うオープンアクセス(OA)出版にシフトする契約。OA出版によって研究者は論文を無料公開でき、企業人や他分野の研究者に読まれたり、引用されたりする機会が増える。しかし大学にとっては、受益者が限定されるため費用負担の設定が難しいなどの課題がある。東工大は著者に一部を負担してもらう仕組みに変更した。

日本での転換契約は2022年4月に始まり、東工大は大手出版社ワイリーと最初に契約した4大学の一つだ。同シュプリンガーネイチャーや欧州系の老舗出版社「テイラー・アンド・フランシス」、米国化学会(ACS)など現在、計8機関と契約している。

研究者の負担なしとした結果、対象雑誌に載った論文のほぼ全てがAPC転換によるOA出版となり、高いニーズを確認した。これを踏まえて23年4月から研究者負担を新たに設定。各雑誌のAPCに基づき23年度の負担額を決めた。

ただし責任著者が学生の場合は引き続き全額を支援する。研究者のキャリアのスタートを後押しする狙いだ。

日刊工業新聞 2023年08月04日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
転換契約における大学(図書館)と研究者の負担割合は、各大学で決めている。国内の転換契約は22年4月から4大学で始まったため、「第一弾の方式による実績を振り返って、第二弾の方式にシフトする」大学は、まだわずかだ。理工系総合大学の東工大は、「第一弾は研究者はゼロ(大学がすべて負担)。第二弾は研究者も1件6万円など負担、ただし学生が責任著者ならゼロ」とした。これに対して論文事情が異なる文系も抱えた総合大学の東北大は、「第一弾は研究者が半額を負担(30万円など)。第二弾は若手ならゼロ、中堅以上は論文雑誌のスコアや外部資金獲得額に応じて負担」とした。転換契約スタートの大学数が多いのは「23年1月開始組」だけに、これからの大学とともに、両大学の経験は大いに参考になるだろう

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