ニュースイッチ

寡占で高騰する論文雑誌購読料・掲載料…国を挙げて出版社と交渉へ

内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)は誰もが無料で学術論文を読めるオープンアクセス(OA)の普及に向け、国際的な出版社と交渉するオールジャパンの体制を整備する。購読料を論文掲載料にシフトしてOA出版を可能にする転換契約などを促す。秋にも政府のOAの基本方針を策定する方針で、関係省庁や大学などと調整に入った。大学・研究機関の論文コスト負担増の解決に乗り出す。

論文雑誌の出版社は寡占状態で、購読料や論文掲載料は高騰している。対策として、先進7カ国(G7)の広島首脳コミュニケ(共同声明)、科学技術大臣コミュニケでOAを推進する方針が示された。日本政府は論文雑誌の価格交渉を各大学と各出版社に委ねており、欧米に比べて対応が遅れていた。2022年秋からのCSTIの議論とG7を経て、「政府の競争的研究費によって主成果を出した論文は、25年度新規公募分から即時OAとする」方針を公表。公募要項などにOA推奨が記され始めた。

まず国としてのOA基本方針を策定し、即時OAの実現について世界的な出版社と団体交渉をする。これに向け内閣府、文部科学省、日本学術振興会、科学技術振興機構、日本医療研究開発機構、大学グループなどの連携体制を整える。

OAの具体的な形態は大学・研究者のタイプ別に三つを想定する。まず論文の購読数、掲載数が多い大規模研究大学はコンソーシアムを作り、転換契約において共通の条件交渉を行う。

それ以外の大学の研究者に対しては、個人単位で閲覧が可能な「デジタル・U・ライブラリ」(仮称)を創設する。利用がさらに少ない大学や研究者は、個別の論文購入で対応するとの内容で、出版社と交渉する計画だ。

日刊工業新聞 2023年08月11日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
オープンアクセスや、その上位概念のオープンサイエンスの大きな変化に対して、日本はこれまで遅れていた。が、G7議長国として大車輪で意識変革をし、G7のコミュニケにおける同テーマの重要性明記など成果を出した。その勢いを維持したまま、出版社ときっちり交渉するために国を挙げた体制を構築するという。この先、1年ほど動きが注視される重要テーマとして、引き続き取材していきたい。

編集部のおすすめ