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若手研究者の論文発信を後押し 東北大、論文誌の購読料→論文掲載料に転換

東北大学は学術論文雑誌の電子ジャーナルの購読料を、論文掲載料(APC)に転換する契約に関する支援策を9月に拡充する。国際的な大手出版社2社の対象論文誌を対象に、研究者のAPC負担をより抑えられるようにする。ジャーナルランキングのスコアが高い、他の論文誌への掲載に対する支援も始める。いずれの場合も若手研究者に対してはAPCの全額を支援する。転換によりインターネットでの論文無料公開を可能にし、研究成果の発信力を高める効果が見込める。

転換契約は論文の講読・閲覧(リード)に当たり大学図書館が出版社に支払う費用を、著者(研究者)が払う発行(パブリッシュ)費用であるAPCに転換。あわせて著者が無料発信することでオープンアクセスを可能にするものだ。東北大など国内の複数の大学は、大手学術出版社のワイリー、シュプリンガーネイチャーが発行する多数の論文誌パッケージに対して、この「リード&パブリッシュ」の契約を結んでいる。

同大は2022年度にリード&パブリッシュを始めるとともに、学内での支援を開始。著者はAPCの半額に当たる数十万円程度を負担する仕組みにした。しかし制度の利用者が研究費を潤沢に活用できる理系のベテラン研究者に偏り、支援枠が余る状況となった。そのため「若手育成を自負し、文系も大事だと考える総合大学として見直しを行った」(大隅典子図書館長)。

2出版社の対象雑誌の場合、39歳以下の若手に対しては本部が全額支援する仕組みに変更。40歳以上の研究者については各雑誌の評価スコアに応じ、支援割合を引き上げる。

それ以外の影響力が大きい著名論文誌に発表する場合の支援策も新規に設定。若手に対しては全額支援、40歳以上で外部資金獲得額が少ない研究者には一部を支援する。

APCで出版した論文は無料公開が認められるため、企業人や一般人が読んだり、他論文で引用されたりする機会が増える。多くの大学が対応を検討しており、同大の動向は影響を与えそうだ。

日刊工業新聞 2023年07月27日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
ジャーナル問題は出版社の寡占化により長年、価格高騰が続き、各大学を悩ませてきた。ここへ来てオープンサイエンス、オープンアクセスという切り口から、転換契約という別の変化が起こってきた。オープンアクセスは論文やデータなど科学研究の成果を、一般人も入手できる仕組みなので、従来の大学の経費問題よりも幅広い人が関心を寄せるだろう。東北大は以前からこのテーマで全国の大学のリーダー格だ。大手2社との取り組みに動けていない旧帝大もある中、「ファーストペンギンとなって」(大隅東北大図書館長)全国を引っ張って行ってほしい。

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