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海運、脱炭素と並行して燃料コスト減らすには…帆への回帰も

海運、脱炭素と並行して燃料コスト減らすには…帆への回帰も

石炭運搬船へのシーウイングの搭載イメージ(川崎汽船)

制御技術進化、運用始まる

海運業界の脱炭素燃料は、単純に重油と置き換えることはできない。荷主は温室効果ガス(GHG)の排出削減に積極的だが、それは許容範囲のコストであればの話だ。採掘して使う重油に対し、新燃料は環境に優しい方法で新たに製造するため、二重三重のコストがかかる。「輸送コストが2倍、3倍になれば荷主は躊躇(ちゅうちょ)する」(川崎汽船の池田真吾執行役員)という。

つまり脱炭素燃料船こそ、省エネルギー化で燃料使用量を抑える必要があるのだ。

そこで海運大手が着目するのが、約200年前まで大型船の主要な推進力だった風の力だ。風の利用は50年前のオイル・ショックの時にも注目され、今、制御技術の進化などで実用性が高まっている。まず既存燃料船で装置の搭載が始まるが、新燃料船も視野に入れているとみられる。

川崎汽船の凧(たこ)を使う推進装置「シーウイング」は燃料の使用を減らし、約20%のGHG排出量削減を期待できる。2023年秋に自社の大型バラ積み船に搭載して大型船で効果を検証し、24年以降の実用化を目指す。

商船三井は帆を使う推進装置「ウインドチャレンジャー」の開発と搭載を推進する。22年に運航を開始した1隻目の船舶は5―8%のGHG排出量削減効果を見込む。今後、現行比で数十%の軽量化に向けた開発を行い、省エネやコスト削減を進める。また30年には搭載隻数を25隻に増やす。「狭い場所では帆を縮められて、回転は自動制御する。乗組員の手間が増えないように一歩踏み込んで検討している」(技術革新本部の杉本義彦技術部長)という。

日本郵船も24年に蘭エコノウィンドの小型の帆を使った推進装置を自社グループの船舶に初搭載することを7月に公表し、大手がそろい踏みとなった。

新たに装置を設置せずに燃料消費を減らす方法もある。最もシンプルなものは減速だ。船は航空機ど厳密にエンジン回転を維持しなくても進める。ただ、貨物が届くのが遅くなるため、荷主と話し合って行う。「減速や(貨物を積載しない)バラスト航海の削減など、今できることをきちんとやることが重要だ」(川崎汽船の池田執行役員)。

商船三井は、運航データを活用してさらなる効率運航を支援する子会社「EcoMOL」をフィリピンに設立した。同子会社の常駐職員が船の速度や燃費などを分析し、運航担当と情報を共有する。以前から取り組む船の機器から取得したビッグデータ(大量データ)分析の成果も活用し、24年末までに効率運航で燃料消費を5%削減する。

脱炭素燃料が船舶技術の進化を促す。(おわり。梶原洵子が担当しました)

日刊工業新聞 2023年09月15日

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海運 脱炭素燃料戦略
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