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製薬業界で大型買収が過熱…国内企業の動向は

成長企業の見極めカギ

M&A(合併・買収)や技術提携などの動きが製薬企業に広がる。スタートアップやベンチャーが集中する海外で特に活発化しており、世界のメガファーマ(巨大製薬会社)による大型の買収が相次ぐ。国内の製薬企業も有力な医薬品のライセンス権獲得や数千億円規模の買収をしており、グローバルでの競争力向上につなげる。(安川結野)

武田薬品工業は有力な候補薬の獲得に乗り出した。1月に中国の製薬企業ハッチメッドから大腸がん治療薬「フルキンチニブ」について、中国を除く全世界での開発・販売の独占的ライセンス権を取得。8月には米バイオ企業のイムノジェンが開発し、米国では条件付き承認を取得している卵巣がん治療薬「マーブツキシマブ(MIRV)」の日本における独占的開発・販売権を買い取った。

武田薬品工業は潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」や希少疾患薬「タクザイロ」など引き続き主力の成長を見込むものの、2023年度は候補薬の開発がやや失速する年とみられた。他社の有力候補薬を獲得することで、継続的な成長につなげる。

クリストフ・ウェバー社長が「後期段階のパイプラインで大きな可能性があり、23年度は重要なデータと規制上のマイルストーンのアップデートを見込んでいる」と強調するように、フルキンチニブが米国食品医薬品局(FDA)から優先指定を受けたほか、欧州でも承認申請が受理されるなど開発が進む。

すでに22年には米バイオ企業のニンバス・セラピューティクスの子会社ニンバス・ラクシュミを約5500億円で買収し、皮膚科領域を強化した。消化器治療薬で培った炎症を抑える知見を生かし、中長期的に開発力を高める。

また、主力製品の特許切れに備え、買収や技術提携を活発化しているのがアステラス製薬だ。22年度に6611億円を売り上げた抗がん剤「イクスタンジ」の特許切れが27年に控えており、5月に眼科領域の薬を開発する米アイベリック・バイオを約8000億円で買収し、同領域を新たな柱へと成長させる戦略だ。

さらに、がん領域の細胞医療について米バイオ企業のポセイダ・セラピューティクスと戦略的提携をしたほか、ペプチドリーム(川崎市川崎区)と共同研究およびライセンス契約を結ぶなど、重点開発領域において相次いで技術強化に取り組んでいる。

元々はスタートアップやベンチャーだった企業が成長し、有力な候補物質や革新的な創薬技術が育ってくると、世界のメガファーマが1兆円規模で買収してくる。資金力で差がある日本の製薬企業は今後の成長性が見込めるものをいち早く発見、獲得し、少しでも大きく成長させていくことが求められている。

日刊工業新聞 2023年09月08日

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