朝ドラ「らんまん」で注目!牧野富太郎博士の研究成果、製薬やロボットに活きる
日本には多くの固有の植物が生息しているが、詳細な研究が始まったのは明治時代になってからだ。その先駆者であり日本の植物学の父と呼ばれる牧野富太郎博士は、植物の新種発見や約40万点の観察標本収集、図鑑の出版などで植物学の基盤づくりに尽力した。植物学では現在も植物ごとの成分や効能・特性、形状などの研究が進む。こうした成果は学術界での発表だけでなく、製薬や化学、ロボットなどの産業分野にも生かされている。(飯田真美子)
牧野博士は1862年に自然豊かな高知県で生まれ、幼少期から植物に興味を持っていたという。植物学者を目指して上京し、研究に没頭した。学歴は旧制小学校中退だったが東京帝国大学(現東京大学)に50年近く在任し、65歳の時には理学博士の学位が与えられた。牧野博士は「雑草という名の植物はない」という考えを持ち、94歳の生涯を終えるまでにムジナモやセンダイヤザクラといった1500種類以上の植物に命名。植物の詳細な観察記録をまとめた「牧野日本植物図鑑」を執筆するなど日本の植物学の土台を作った。
その業績を記念して設けられた高知県立牧野植物園(高知市)には、牧野博士が発見・命名した植物だけでなく四季折々の草花が屋外や温室で楽しめる場所として多くの人が訪れる。同植物園は保全活動や植物の有効利用を目指した研究なども実施している。
植物の研究というと新種の発見や機能解明などの基礎研究がメーンだ。だが牧野博士が学術分野として確立したことで、植物学の成果がさまざまな分野の研究者の目に触れるようになった。
現在では応用研究も進んでおり、産業界への貢献も大きい。特に製薬分野では漢方の原料となる薬用植物の研究が盛んだ。詳細な効能や成分を科学的に調べるだけでなく国内栽培化に向けた産学連携の動きも見られる。
牧野植物園は5月に研究棟「植物研究交流センター」を新設した。共同研究施設には小林製薬などが入居し、薬用植物の栽培・加工研究などを進める。
漢方に限らず、植物が持つ成分がヒトの疾患の治療に効果がある場合も多い。名古屋市立大学の研究グループは、街路樹などに見られるキョウチクトウ科の植物の茎から抗がん作用が期待できる成分を発見。研究に使った植物は牧野植物園の資源だ。同植物園の川原信夫園長は「同園に生息していた植物が研究に貢献できたことには大きな意義がある」とした。
牧野博士が執筆した図鑑には植物の詳細な形が多くの角度から描かれており、構造が一目で分かる画になっている。植物の形や動きは独特なものも多数あり、ロボット分野にも生かされている。理化学研究所は外からの刺激を受けると葉が閉じるオジギソウの性質を利用して、枝に軽く触れるだけで開閉するバルブを開発した。電源がなくても稼働するため、自律的な植物デバイスとして応用が期待できる。地球上には数え切れないほどの植物が生息し、未発見の個体も多く存在する可能性が高い。牧野博士が94歳で亡くなる少し前に「体のきく間は今まで通り勉強を続け、植物学に貢献したい」と学び研究する姿勢を崩さなかった。現在は牧野博士が樹立した植物学の基礎がさまざまな分野の応用研究につながり、成果の花がらんまんと咲き誇っている。