製造業が集積する中部地方では、変革の時代を切り開く旗手としてスタートアップに期待が高まっている。インキュベーション施設をはじめとする多様な支援策を展開する中小企業基盤整備機構は、創業支援のノウハウや関係機関とのネットワークを生かしてエコシステム形成の一翼を担っている。「地域の有望なスタートアップを発掘したい」と力を込める中小機構中部本部企業支援部長の瀬崎恭弘氏に支援策の取り組みを聞いた。

―中部地方でのスタートアップ創出の動きをどう見ていますか。
　「中部経済連合会、愛知県、名古屋市、名古屋大学および浜松市が主導役となり、金融機関などを含めた地域のステークホルダーが連携しながらエコシステム形成が進んでいます。『ナゴヤイノベーターズガレージ』、『なごのキャンパス』に続き、２０２４年１０月には愛知県による日本最大級のスタートアップ支援拠点『ステーションＡｉ』が開業予定で、エコシステム形成が加速していくでしょう。さらに、岐阜県や三重県でも行政を中心としたスタートアップ支援が始動するなど、地域全体にエコシステムが拡大しています」

―中小機構のスタートアップ支援の特徴は。
　「多様な支援策で、スタートアップの成長段階に合わせた総合的な支援を展開しています。インキュベーション施設の運営は柱の一つで、中部本部は大学連携型施設の名古屋医工連携インキュベータ（ＮＡＬＩＣ）など名古屋市内に２カ所、浜松市に１カ所を所管しています。実験が行えるラボ型の居室を中心としており、研究開発型のスタートアップのニーズに応えています。また、ファンド事業も行っていてベンチャーキャピタル（ＶＣ）に対してＬＰ（有限責任組合員）出資者となり、資金供給の面でスタートアップの成長を後押ししています」

－インキュベーション施設の運営をハード支援とすれば、近年は伴走型のソフト支援にも注力しています。
　「スタートアップや起業予定の方が抱えるさまざまな相談に対応するため、２０２３年度から『スタートアップ挑戦支援事業』を開始しました。全国１０カ所の地域拠点に弁護士、公認会計士やベンチャーキャピタル（ＶＣ）経験者らスタートアップ支援の経験が豊富な専門家を配置し、戦略立案や資金確保など成長の過程で直面する多様な課題の解決に対応します。実は、スタートアップという冠を付けた中小機構の支援策は、これが初めてです。インキュベーション施設から一歩踏み出し、スタートアップの創出、育成に積極的に関わっていくという、われわれの意気込みを表しています」

「アーリーからシードの段階にあるスタートアップを対象にしたアクセラレーションプログラム『ＦＡＳＴＡＲ』も着実に実績を重ねています。参加企業に専門家が１年間伴走し、成長戦略や事業計画のブラッシュアップを支援するプログラムに取り組み、ゴールとしてＶＣからの資金調達、大企業との事業提携などマッチングを目指します。中部地方からは、高性能微生物を用いた動植物油の分解事業を行う名大発ベンチャーのフレンドマイクローブ（名古屋市千種区）がＦＡＳＴＡＲ支援終了後に５つのピッチイベントで受賞を果たし、目標金額以上の資金調達に成功しました。このほか、中小企業向けマッチングサイト『Ｊ－ＧｏｏｄＴｅｃｈ』を活用して、大学発ベンチャーのシーズを中小企業につなげるといったことも考えたいですね」

－スタートアップの成長を加速するための課題は。
「起業後のサポートに対するニーズに、いかに応えていくかは課題の一つですね。スタートアップに関する支援人材の多くが東京に集中しており、経営相談をしたくても、地方には適切な相談相手がいないという現状があります。近年注力しているスタートアップ挑戦支援事業などのソフト支援は、そうしたニーズに対応した施策ともいえます。人材面を課題とするスタートアップは多く、特に成長過程ではＣｘＯ人材といわれる経営人材が必要です。人材面での支援は、スタートアップの成長を促すためには必須になるでしょう」

－スタートアップ支援に向けた意気込みをお聞かせください。
　「国のスタートアップ育成５カ年計画の一翼を担う立場として、中小機構はこれまでに培った支援ノウハウ、ネットワークを駆使して地域のエコシステム形成に貢献していきます。私自身も大学を巡るなど、有望なスタートアップの発掘に汗をかきたいと思っています。国の施策も充実してきており、相談など気軽に利用してほしいですね」

------------------------------------------------------------------
　　独立行政法人中小企業整備基盤機構　中部本部
　
　　https://www.smrj.go.jp/regional_hq/chubu/
　------------------------------------------------------------------