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自動車・2輪車・自転車に次ぐ交通手段になるか…「電動キックボード」普及の可能性

来月法改正、新区分に
自動車・2輪車・自転車に次ぐ交通手段になるか…「電動キックボード」普及の可能性

電動キックボードのシェアリングサービスが名古屋市内でも見られるようになってきた(クリスタル提供)

7月1日の道路交通法改正に伴い、16歳以上は運転免許証不要で電動キックボードに乗れるようになる。現在、電動キックボードは経済産業省の実証事業などにより、シェアリングサービスを中心に市場が拡大。法改正により手軽に公道での運転が可能になるため、シェアリングサービスだけでなく、個人での保有・使用も拡大するとみられている。自動車や2輪車、自転車に次ぐ交通手段へと成長するか。(高屋優理、増田晴香、名古屋・永原尚大)

16歳以上免許不要、時速20kmで公道走行可

電動キックボードは現行の道路交通法上では「原動機付き自転車」に区分され運転免許証が必要だが、7月からは新設の区分「特定小型原動機付き自転車」に入る。このため16歳以上であれば運転免許証は不要となり、ヘルメット着用は努力義務で公道を走行できるようになる。

電動キックボードは時速50キロメートル出る製品もあるが、7月からの法定速度は時速20キロメートル(歩道は同6キロメートル)となる。さらに立って乗るスタイルなどから「ラストワンマイル」と呼ぶ、0・5キロ―4キロメートル(徒歩で5―45分程度)の短距離移動と親和性が高いとされる。

海外に目を向けると電動キックボードは現在、米国やドイツなどの大都市でシェアリングサービスが拡大している。ボストンコンサルティンググループによると、個人所有、サブスクリプション(定額制)、シェアリングを合わせたマイクロモビリティーの世界市場規模は1000億ユーロ(15兆5068億円)に達しており、今後10年間は年30%程度の成長を続ける見通し。

日本では2021年4月に経産省の産業競争力強化法に基づく「新事業特例制度」において、実証実験の認可を受けた事業者が電動キックボードのシェアリングサービスを開始。特例によりヘルメットを任意で着用し、普通自転車専用通行帯や自転車道の走行を認められている。現状、認可を受けた米最大手バードなど15事業者がサービスを提供している。7月以降はさらなる拡大が見込まれる。国内最大手のLuup(ループ、東京都千代田区、岡井大輝社長)は、国内のシェアリングサービスの市場規模は1兆―2兆円程度とみている。

“クルマ社会”名古屋でもじわり浸透

名古屋市。クルマ社会と言われるこの地域でも、電動キックボードがじわりと浸透し始めている。自動車メーカー向けに車載システム開発を手がけるクリスタル(名古屋市西区、蒼佐ファビオ社長)は4月、シェアリングサービスの提供を同市内としては初めて開始。5月末にはループも参入した。公共交通を補完する短距離移動の手段として、ビジネスや観光目的の利用者が市内で見られるようになってきた。

ループは「名古屋の移動課題として、鉄道網が充実しきっていない」と参入の意図を説明する。JRや私鉄、地下鉄はあるが、南北の移動手段は不足気味。一方、東京や大阪と比べて中心部がコンパクトに集まっているため短距離移動のニーズは強い。料金面では、数分の利用はループが強く、7分以上はクリスタルが強い。クリスタルは10分間の初乗りが185円で、以降1分当たり15円(いずれも消費税込み)。ループは基本料金が50円で、1分当たり15円(同)を加算する。

シェアリングサービスは、貸し出しと返却の拠点であるポートの数と立地が競争力の要となる。クリスタルは名古屋駅(同中村区)を中心に数カ所と少ないが、7月の法改正を機にビジネス・官庁街の「丸の内」や繁華街の「栄」にポートを広げる。25年末には350カ所へ拡大する計画だ。ループは市内各地に約50ポートを展開。繁華街を中心に、公共交通で移動しづらい場所まで網羅的に配置した。今後は「一つのポートから数分歩いたら、もう一つポートがある密度を目指す」(ループ)。 

クリスタルは車載システム開発という強みを生かし、「スマートフォン向けアプリ開発にノウハウを結集させる」(蒼佐社長)ことで差別化を図る。ループは座って移動したい人向けに電動アシスト自転車も提供することで利用者獲得を狙う。名古屋では2社の切磋琢磨(せっさたくま)によりサービスの魅力が高まり、電動キックボードの普及が加速していきそうだ。

観光地の移動手段・地方の2次交通代替に

電動モビリティー開発のスタートアップ、Kintone(キントーン、茨城県常総市、辻本諒社長)は、改正道路交通法に適合した新型電動キックボードの先行予約販売を5月に開始した。国産キックボードとして注目されており、予約は殺到。持ち運びに便利な小型ながら、大径タイヤを採用し、段差での衝撃吸収など乗り心地も高めた。部品の選定にこだわり、専門の技術スタッフによる組み立てで高品質を実現した。国内メーカーのため迅速な修理やアフターサービスも強み。

電動キックボードはビジネスの移動での利用も期待される(イメージ)
キントーンの電動キックボードは専門の技術スタッフによる組み立てで高品質を実現

国内でいち早く型式認定を取得予定。改正法対応モデルは、型式認定基準で表示灯のサイズなど細かい指定がある中、ミニマムでスタイリッシュなデザインと安全性を両立した。今後の販売拡大に向け、組み立て作業の一部委託や専門スタッフの増員で生産能力を2倍以上に引き上げる計画。現在の小型モデルのほか、大型で走行距離などを向上したモデルや原付モデルも開発中だ。 

今後、特に期待するのは、観光産業への波及効果。欧米や中国、韓国など海外ではすでに電動キックボードがメジャーな存在で「インバウンド(訪日外国人)客にとってなじみがあり、選択肢に入りやすい」(辻本社長)という。

地方はバスの本数が少ないなど、2次交通に問題を抱える場所もあり、駅前に電動キックボードを設置すればそのような不足を補うことも可能。駅から観光地、または観光地間がある程度離れている場面などで電動キックボードが有力な移動手段になりそうだ。 

キントーンは、最新技術の社会実装に注力する茨城県つくば市への電動キックボード提供を皮切りに地方自治体とも連携を進め、需要拡大を狙う。 

電動キックボードの立ち位置について辻本社長は「他の乗り物に取って代わるのではなく共存を目指す。シーンによって使い分けてもらう」と思い描く。例えば電動キックボードは、荷物の運搬など実用的な用途には不向きだ。7月以降、大都市や観光地での短距離移動、2次交通が弱い地方での足といった強みを発揮できる分野で市場を形成していけるか注目される。

日刊工業新聞 2023年06月23日

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