「対等になれるのか」…東京医科歯科大と東工大、統合へ2学長が語ったこと
「工学系と医学系の大学の理念は合致するのか」「双方は本当に対等になれるのか」―。2024年度に東京医科歯科大学と統合予定の東京工業大学はこうした不安に応えるべく、卒業生らを対象としたイベント「ホームカミングデイ2023」に東京医科歯科大の田中雄二郎学長を招いた。益一哉東工大学長、田中東京医科歯科大学長と卒業生らの質疑応答では、“自由でフラット”な組織構築を後押しする「コアバリュー推進室」の設置を明らかにした。(編集委員・山本佳世子)
ホームカミングデイは東工大と同窓会組織「蔵前工業会」が共催する。23年の目玉は24年度中の統合を目指す東工大、東京医科歯科大の両トップとの質疑応答だった。まず「両大学の理念やビジョンは合致するか」という質問に益学長は「東工大は産業で、東京医科歯科大は医療で研究成果を応用し、社会を支えている」と説明。田中学長は「フィールドは違うが目指す方向は似ている。統合は可能と考えた」と歩調を合わせた。
さらに益学長は「両大学の分野はほとんど重ならない。似ていると張り合う面が出るが、互いにリスペクト(尊重)する気持ちを持つことができる」と強調。「統合に向けて困難なのは文化が違うことだ。しかし乗り越えると、おもしろいことがある」と呼びかけた。
年長の理工系人材の間では、ヒエラルキー型の医学系の体質を心配する声がある。田中学長は「確かに医師が“太陽”で、看護師や検査技師などが“惑星”という時代があった。その当時の医工連携で、工学系の研究者が(医学系に見下されて)屈辱を味わったと聞く」と認める。その上で、「今はパスし合うボールを持っている人が中心になる、チーム医療の時代だ」と強調。変化の途上にある状況へ理解を求めた。
また医学系の診療科は“トーナメント方式”の昇進で、激しい競争の弊害が指摘される。田中学長は「新大学では若くても研究室主宰者(PI)になれるようにし、医工連携を進める」という双方の合意を披露。益学長は「精神的な基本は“自由でフラット”」とキーワードを掲げた。
さらに理念だけでは進まない、現実的な壁を越えるために「コアバリュー推進室」を整備。新大学の価値観(コアバリュー)を確立した上で問題点をチェックし、助言や改善を手がけるとした。
未来に向けて「変化に適応するには変化を作る側にまわることだ」(田中学長)、「新たな産業を作る人を育てることに注力する」(益学長)。どちらの観点でも、統合はプラスだと口をそろえた。
