ニュースイッチ

東京医科歯科大と東工大の統合、事務職員の負担は?

東京医科歯科大と東工大の統合、事務職員の負担は?

統合を決めた田中雄二郎東京医科歯科大学長(右)と益一哉東工大学長

2024年度中の統合を目指す東京医科歯科大学と東京工業大学。合意から新大学の名称公表までの速さは社会からの評価を高めた。重複解消による人的余裕を生かした高度な専門職員の活躍など、他大学のモデルになる必要がある。(編集委員・山本佳世子)

東京医科歯科大と東工大の統合は協議開始から合意まで2カ月、「東京科学大学」(仮称)に名称を固めるまで3カ月。意思決定が極めて速い。背景には政府の大型施策「国際卓越研究大学」制度スタートがある。3月末の公募締め切りに向け、早期に道筋を示す必要があった。医療や産業の高度実務者を育成する両大学は、外部資金獲得などで「社会からどう見られるか」という意識を育ててきた。単科大学のため総合大学と異なり、全学がまとまりやすい面も効いた。

意思決定の進め方を含め、統合に関する内外の批判は少ない。名称検討の場合、ワーキンググループのメンバーは多職種(教員、学生、事務職員、リサーチアドミニストレーター=URA、医療職)で男女や年齢、国際性など考慮して両大学同数で構成。一般提案6000件超を参考にしたという。

一方で統合作業の負担は重い。東京医科歯科大の卒業生の一人、東京大学大学院医学系研究科の水島昇教授は「統合は長期的視点で素晴らしいが、短期間に集中する負担にも配慮がいる」と心配する。“吸収合併”なら話は容易だが、学生数は東工大が3倍以上、教職員数は病院を持つ東京医科歯科大が1・7倍と複雑だ。統合の仕組み作りや文書化の膨大な作業は国際卓越研究大学の審査に進んだ場合の重なりを含め、かなりのものになる。

ただ人員削減をせず、重複を減らせるのは利点だ。別の国立大学執行部である卒業生は「生まれる余裕は今後、近年の業務拡大に沿った事務の高度化につなげられる」とみる。例えば研究・教育データを分析するインスティテューショナルリサーチ(IR)の充実だ。研究支援のURAなら高度な医工連携に挑むことができる。

統合の規模拡大効果はデジタル変革(DX)でも大きい。トップクラスの研究大学同士の統合だけに、表舞台を支える組織の仕組みや人材施策での変化も期待されそうだ。

東京医科歯科大と東工大の統合は日本の成功モデルになるか

日刊工業新聞 2023年03月16日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
2大学統合に対し学内外の声をかなり聞いて回ったが、批判の声がほとんどないのに驚いた。伝統重視より、新たなパワーを得て変わっていくことを歓迎する関係者が、予想以上に多かったのだ。しかし、働き方改革が言われる中で、個人的には「事務職員など関係者は大変だな…」ということが気になっていた。他メディアは取り上げない話であり、「注目ポイントか? というとズレている」のかもしれない。が、多様な人に目配りをして発信することは、メディアの役割の一つだと思っている。

編集部のおすすめ