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「国際卓越研究大学」審査開始…“大学改革の総仕上げ”から目が離せない

研究で世界トップクラスの大学を実現する「国際卓越研究大学」の審査が始まった。研究力を土台に社会変革を起こし、外部資金を獲得しながら成長し続けることが期待できる数校を絞り込む。今回は応募10校の中から東京理科大学早稲田大学東京大学の3校の強みや申請の狙いを探る。一方、地域貢献も重要な「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」の公募準備も進む。2023年は国立大学法人化から20年目。“大学改革の総仕上げ”から目が離せない。(編集委員・山本佳世子)

国際卓越研究大に認定されると、政府の10兆円ファンドの運用益から、1校当たり年数百億円の助成金が25年間にわたり投入される。これを活用して年3%成長を続け、予算規模を倍にするよう促す。この間に各大学は独自の基金を構築。事業終了後はそれを活用し、自立した成長スパイラルに入るというのが、描く理想型だ。

一方、この対象となりにくい「地域中核・特色大学」への支援策が別途、検討されてきた。文部科学省の22年度補正予算により基金型の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」が決定した。

日本の研究力を強化する上で、国際卓越研究大と地域中核・特色大の二つは車の両輪と位置付けられている。

東京理科大学/理工系人材育成 2万人規模

国際卓越研究大応募10校のうち、意外性から注目を集めたのは東京理科大だ。高校教諭や企業人事担当者による大学ランキングでは上位常連校となっているが、研究力での知名度はさほどでもなかったためだ。

同大の特色はその教育力、つまり人材育成の潜在力だ。理工系の在籍学生は約2万人で、他の応募大学と比べずぬけている。

国立大と違って進学率の“伸びしろ”もあり、「博士進学率を倍増」とドラスチックな目標値を記す。石川正俊学長は「理工系人材強化という日本の課題に対し、貢献度の高い本学を応援していただきたい」と強調する。

同大は中高の理数教諭や校長の人材を多く輩出しているのもポイントだ。科学、技術、工学、芸術、数学を総合的に学ぶ「STEAM教育」やデータサイエンス、人工知能(AI)のスキルを理数教諭が身に付け、子どもの教育に還元する仕組みも、大学院科学教育専攻などで整えつつある。

「本学なら科学技術の各層の人材を一気に変えられる」(石川学長)。国際卓越研究大の審査では、他とは異なる議論が予測される。

東京理科大は理工系学生で全学2万人。応募大学の中で随一の規模だ(本部のある東京都新宿区の神楽坂キャンパス)
早大の理工系の西早稲田キャンパス(東京都新宿区)の63号館。早大が力を入れるカーボンニュートラル研究でも活用されている

早稲田大学/留学生1万人に

「国際卓越研究大への応募は、挑戦すべき課題であると2年前から確信していた」と熱く語るのは、早大の田中愛治総長だ。同大の売りものの一つは国際性だ。国際寄付は累計65億円に上る。32年までに学生約5万人の同大の中で外国人を2割、1万人とする計画を持つ。この実現に向けて教員の採用では「英語での授業が可能なこと」という条件を、全学に広げる予定だ。

研究の柱は文理融合のカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)だ。全学14の重点領域で、教員同士の文と理の共同研究と、合わせて二つの学位を持つ人材育成を図る。将来は二つの博士号を持つ“ダブルドクター”の夢も描いている。

東京大学/日本型事業モデル構築

国際卓越研究大の計画では各大学の独自基金が要の一つだ。東大は事業終了時で「独自基金1兆円、運用益年500億円」という数字を打ち出した。しかし“大学ビジネス”偏向には一線を画し、新しい日本型モデルの構築を掲げる。「気候変動や少子高齢化、AIなど世界的な課題に対しては、東アジアの哲学や思想も取り入れた、欧米とも中国とも違う発信をしていく」と太田邦史理事・副学長は説明する。

また「本学は著名雑誌への掲載指標『ネイチャーインデックス』に加え、論文の分野で見る学術の多様性指数でも、世界の大学トップ10レベルにある。全体の論文引用率を高めつつ、数字に表れにくい分野も支援したい」(太田理事)と表明。バランス感覚もまた、日本の強みなのかもしれない。

「地域中核大」公募準備 資金難の地方大に光明

国際卓越研究大は、認定で自動的に助成金が入るわけではない。助成額は認定大学の「外部資金獲得額」(公的資金を除く)と、「自己財源から独自基金に回した額」「同じく10兆円ファンドへ拠出した額」に応じて決まる。つまり産学連携や寄付による独自資金が多い大学にしか、助成のメリットはない。

ある理工系国立大の学長は、「本学では申請ハードルはクリアしているが、助成金額が少ないと判明したため応募しない」と学内で説明。地域中核・特色大事業へ応募を切り替えた。

同事業へ応募予定の愛媛大学の仁科弘重学長は「日本の財政状況を考えると、国立大が自律を目指すのは正しい道だ。そのために外からの評価が必要になる」と、国際卓越大と共通する意識を持つ。しかし地元ニーズの強い1次産業支援を念頭に「都市部におけるビジネス創出と、事情が違う点は理解してもらいたい」と注文する。

文科省は同事業とセットとなる施設整備の公募で、一足先に採択30件を発表。愛媛大も選ばれた。山梨大学の場合は2件を獲得した。一つは提案大学としての「クリーンエネルギー研究拠点施設」。カーボンニュートラルの研究実証やスタートアップ創出に向け、地上4階建てビルを建設する10億円の計画が認められた。他に順天堂大学が提案大学で、山梨大は連携大学となる「先端脳科学研究拠点施設」が予定される。

地方大の連携は教育での実例こそ豊富だが、研究での組織的な協力は進んでいない。そうした状況に地域中核・特色大事業が、大きな変化をもたらす契機になるか注目される。

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日刊工業新聞2023年5月3日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
今年度は国立大学法人化からちょうど20年目。法人化前であれば「とんでもない」とされていたが、年月をかけての意識改革や議論の積み重ねの結果、合意が得られるようになってきたという事柄は、決して少なくない。各大学は満身創痍で、ようやくここまで進んできたのだ。その上で、二つの大事業が本格稼働したことは感慨深い。各大学独自の中身の濃い中長期の計画が、社会との約束ーエンゲージメントーとして信頼を得ることで、日本の社会と大学の新たな段階に入ると感じている。

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