化学メーカーが技術提案加速、「リチウム電池バインダー」の世界
化学メーカーがリチウムイオン電池(LiB)周辺部材の一つである「バインダー(接着剤)」の技術提案を加速させている。DICが新材料を開発し参入を狙うほか、レゾナック・ホールディングス(HD)なども新材料をそろえる。LiBは電気自動車(EV)需要の高まりから高容量化が求められ、主要部材の転換も予想される。高容量化に向けては部材の性質から生じる技術的な課題を克服する必要があり、LiB材料市場における潮目の変化を生み出している。(大川諒介)
EV市場の拡大を背景にLiBメーカーの間では、さらなる高容量化を見据えた設計開発が活発化している。こうした動きの中で、負極材料は現在主流の黒鉛系からよりエネルギー密度の高いシリコン(Si)系に活物質の転換が進むとみられている。
ただ、Si系負極材は充電時に体積が膨張する性質があることから、充放電時に膨張・収縮が起こる。電池使用による膨張収縮を繰り返すと集電体から活物質が剥離し電極の機能を損なうリスクがあるなど設計上の課題が生じていた。各社は負極の活物質や補助添加剤などを結着させるバインダーの機能を改良することで膨張収縮を抑制するなど、課題克服に力を注いでいる。
DICはアクリル系合成樹脂を用いた新たな負極用バインダーを開発した。環境変化や充放電による膨張抑制効果に優れ、内部抵抗率が低いなどの特長を持たせた。45度Cやマイナス10度Cの環境下における充放電時の容量維持では、従来材料から数倍の改善が見られたという。民生から高容量の車載向けまで広く提案し、国内に加え中国、米国、欧州での販売を視野に供給体制の整備を目指す。
レゾナックHDは弾性や引張強度の高い塗膜を形成するポリアミドイミド樹脂を採用したバインダーを提案。Si系活物質の添加量を30%まで高めた場合でも電極変形を抑制し、サイクル時の電池容量を維持できる。また、集電体との密着性を向上させるポリイミド系の材料を複数メーカーが提案する。
現在、車載用途などの高容量LiBは黒鉛系の負極材が中心。バインダーには主にスチレン・ブタジエンゴム(SBR)に増粘剤を添加したものが使われる。多様な新材料の提案が加速する中、日本ゼオンや独BASFなどはSi系負極材にも対応したSBRバインダーの開発に取り組む。性能向上に加え、加工性や塗工のしやすさなどの特徴を生かせるとみられる。
電動化とEV市場の拡大を背景にLiBの技術開発が加速する中、材料に求められる機能は日進月歩で変化する。こうした技術トレンドや市場の変わり目を事業創出やシェア拡大の機会に生かせるか、各社の戦略が注目される。
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