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化石燃料は段階的に廃止へ…G7気候・エネ・環境相会合の成果

化石燃料は段階的に廃止へ…G7気候・エネ・環境相会合の成果

G7から参加した気候・エネルギー・環境相による会議。15、16日の2日間にわたって議論した

主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合が16日、閉幕した。採択した共同声明には、石炭火力発電を含む化石燃料への対応、自動車の二酸化炭素(CO2)排出量の削減、再生可能エネルギーの導入目標、プラスチック汚染対策など、多くの合意事項が盛り込まれた。議長国・日本が主導し、気候変動やエネルギー問題を解決する具体策に議論を集中させた成果だ。(編集委員・松木喬)

50年排出ゼロ目標、主要国に呼びかけ

「世界中の国にはそれぞれの経済事情やエネルギー事情がある。多様な道筋があることを認めながらも、2050年脱炭素の共通ゴールを目指すことが重要と確認できた。そして具体化していく取り組みを合意できた」。議長を務めた西村康稔経済産業相は、共同声明を採択した直後の会見で誇らしげに語った。

G7気候・エネルギー・環境省会合の合意内容

事務レベルの事前協議で欧州各国は、燃焼時にCO2を多く排出する石炭火力の全廃期限を明記するように主張したとされる。日本は30年時点で電源の2割を石炭火力に頼る事情があり、共同声明に期限を明記しなかった。

一方で、日本は“多様な道筋”にこだわった。燃やしてもCO2を排出しない水素やアンモニアを活用した発電について「使用を検討している国があることにも留意する」と共同声明に盛り込んだ。水素やアンモニア発電は環境団体から「火力発電の温存」として批判されているが、“多様な道筋”としてG7から認められた。

また、「排出削減対策が取られていない石炭や天然ガスなどの化石燃料を段階的に廃止する」ことで合意した。石炭に限定せずに、すべての化石燃料に対象を拡大した廃止に言及し、火力発電をめぐる議論を前進させた格好だ。

さらに共同声明には「35年までに世界全体の温室効果ガスを19年比で60%削減する」ことの重要性も共有した。そして、主要経済国に対して50年までに排出ゼロ目標を設定するように呼びかけた。政府関係者は「中国を念頭にしている」と明かす。排出量世界1位の中国は、排出ゼロ達成時期を60年としている。また「排出量の集計に漏れている産業部門もある」という。先進国は脱炭素に巨費が必要であり、企業の生産コストは上昇する。対策が緩い国の企業は競争で有利となるため、先進国は途上国にも厳しい目標設定を働きかけている。

G7から参加した気候・エネルギー・環境相による会議。15、16日の2日間にわたって議論した

西村経産相が強調した「具体的な取り組み」の一つが自動車だ。G7各国は保有台数をベースにCO2排出量を35年までに2000年比50%削減することを確認した。欧米はCO2を排出しないゼロ・エミッション車の新車販売の目標設定を突きつけたが、ハイブリッド車も含めた幅広い種類の車での取り組みを認めた。「新車販売に限らない対策だが、野心を下げたのではない。むしろ高めたと認識している」(政府関係者)と強調する。保有台数ベースの現状の排出量は00年比微減とみられ、50%削減に向けた対策強化が急がれる。

再生エネでも具体的な目標を設定した。太陽光発電は7カ国合計で30年までに10億キロワット、洋上風力発電は30年に合計1億5000万キロワットを導入する。

また、共同声明には企業に対してバリューチェーン全体の開示を促す表現も書き込んだ。環境規制が緩い国に生産拠点を移したり、外注を増やして自社だけ排出量を減らしたりして、他国や他社に環境負荷を押しつける行為を防ぐ。

共同声明を採択し、会見する西村経産相(右)と西村環境相

プラスチック廃棄物による汚染を40年までに終了させることも合意した。他にも、日本からの呼びかけで排出削減実績を取引するクレジットの信頼性向上、生物多様性を回復させる「ネイチャーポジティブ経済」への移行も支持された。共同議長を務めた西村明宏環境相も「ここまで多くの具体的な行動内容が決まった会合はない」と2日間の議論を振り返り、安堵(あんど)の表情を浮かべた。

広範な合意がある共同声明について環境政策に詳しい京都大学の松下和夫名誉教授(地球環境戦略研究機関シニアフェロー)は、再生エネの目標値を示したことを「産業界にインパクトがある」と評価した。

一方で、石炭火力の廃止時期の明記がなく「宿題の先送り」と指摘する。水素やアンモニア発電については、使用する産業を限定的にした記載に着目し、「水素やアンモニアに反対する国があり、かなりの議論があった証拠だ」と分析。コスト削減を重視する記述もあり、現状のままだと日本が海外に水素やアンモニアを普及させるハードルは高そうだ。

自動車の保有台数ベースでの排出量削減目標に対しては、誤ったメッセージとなると松下は懸念し「電気自動車(EV)の導入目標が共同声明に入らなかったが、海外ではEVへの転換が進んでいる。国内でも電動化を進めるべきだ」と提言した。

市民向け展示会で技術PR 成長を後押しする政策期待

廃棄物由来の燃料で走る自動車の試乗体験。札幌ドームの「環境広場ほっかいどう」に多くの市民が来場した

G7気候・エネルギー・環境相会合に合わせ、札幌ドーム(札幌市豊平区)で市民に環境問題を啓発する展示会「環境広場ほっかいどう」が開かれた。燃料電池バスの乗車や風力発電の工作体験、EVの電気でお湯を沸かしてコーヒーを提供する実演があり、家族連れや学生でにぎわっていた。

デンマーク大使館はブースを出展し、同国本社の風車メーカーのベスタス、風力発電事業大手のオーステッドを紹介していた。同国は風力を中心に再生エネで電力の半分を賄う。担当者は「会合をきっかけに、日本でも風力発電の普及が進んでほしい。我々は知見を提供して協力できる」と期待感を示した。

環境広場ほっかいどうでは、EVの電気でお湯を沸かしてコーヒーを提供する実演も行われた

一方、あるエンジニアリング会社の担当者は「会合の合意が商売につながるかというと別。議論や目標は大事だが、日本政府にはもっと普及策を考えてほしい」と冷ややかだった。

日本政府は具体策をめぐる議論を主導し、多くの合意を取り付けた。だが、ビジネスの現場では環境に対応した技術や製品の普及策を求めている。G7閣僚会合の成果を生かし、日本企業の成長を後押しする政策を打ち出してほしい。

日刊工業新聞 2023年月4月18日

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