力で色を変える素材、蛍光顕微鏡×摩擦力顕微鏡で仕組み解明
力の刺激で色を変えるメカノクロミックポリマーのうち、脂質の構造をした「ポリジアセチレン」は生体親和性があり、バイオセンサーに期待される。東京大学生産技術研究所の杉原加織講師は、水平にかかる力と色をナノスケールで見る測定法を開発。多様な脂質で特性を調べながら、どのようなセンサーが社会で受け入れられるか、試作に取り組んで頭をひねっている。(編集委員・山本佳世子)
細胞膜の表面を構成する脂質は、水酸基など親水性の部分と、長い炭素鎖など疎水性の部分からなる。ポリジアセチレンの構造はさらに、炭素―炭素の骨格の一部に、三重結合と一重結合が交互に入った特徴を持つ。
これをまず水中に入れると親水性部分が外、疎水性部分は内になって分子が並び、脂質二重膜「ベシクル」の球体形をとる。次いで紫外線を照射すると、三重結合部分が開き、別の分子とつながった二重結合をつくることで、高分子ポリマーになる。もっとも球体の曲面に対応しきれず、短いポリマーが多数、ちぎれて入った状態になる。色は鮮やかなスカイブルーだ。
ポリマーは素材表面にかかる水平方向の力や生体物質の刺激で、三重結合と二重結合に挟まれた炭素同士の単結合に、ひねりの力が生まれる。このため吸収する光のエネルギー量が変わり、赤くなったり蛍光を発したりという変化を起こす。
例えばミツバチの針が持つ毒で、細胞膜にアタックする「メリチン」というペプチドが刺激物だ。ポリマー片を漬けた水槽にメリチンを垂らすと、側面から色が赤く変わっていく。横方向の力と同様の作用をするらしい。発せられる蛍光は蛍光顕微鏡で捉えられるから、バイオセンサーになるという仕組みだ。
力はポリマー面に平行なナノニュートン(ナノは10億分の1)レベルの大きさで光る。「センサーに応用するには、どの方向にどの程度の力を加えるとどれほど発光するか、定量的に調べる必要がある。問題は測定装置がないことだった」と杉原講師は振り返る。微細な力を見る電子間力顕微鏡では、垂直な力にしか対応できないという壁があった。
そこで注目したのが「摩擦力顕微鏡」という別の技術で、ナノスケールに応用した場合の不具合を改善。摩擦力顕微鏡で横向きの力をかけながら、蛍光顕微鏡で発光を測定するシステムを構築した。これにより力と蛍光の定量的、異方的な相関を明らかにした。
現在は脂質の構造を変えたり、血液や尿中のイオンでの感度を見たりといった研究を進めている。さらに生研内の別の研究室で、効果的な社会発信に向けたデザイナー集団「デザインラボ」と連携。「ポリマーを吸わせた包装紙で、配送時に受けた衝撃を可視化する」(杉原講師)といったアイデアを試す。
イチゴなど高級食材の品質保証などでニーズがあるかもしれない。アウトリーチ力もまた、杉原講師の魅力の一つと言えそうだ。