やり抜くことに情熱を傾ける、損害保険ジャパン会長の原点
「この保険金で新しいスタートが切れる。本当にありがとう」
損害保険ジャパンの西沢敬二会長は、被災状況を確認する査定業務を担当していた際に、住宅を全焼して家族を亡くした男性を担当した。審査の結果、保険金を全額支払えることを伝えると涙ながらにこう感謝を伝えられた。当たり前の仕事をしただけだったため、反応に驚いたと振り返る。研修を終えたばかりの入社2年目の出来事だ。
保険の仕事は人の転機や窮地に立ち会う連続だ。この経験で保険の社会的な意義を肌で感じると同時に、日々の当たり前の仕事でも「その先にいる人の将来に思いをはせ、正しくやり切ること」の大切さを痛感した。
「人や企業、世の中の10年後、20年後を想像して何をすべきか考え続け、やるべき事をやり抜くことに情熱を傾けることが重要」と西沢会長は説く。原点にこうした体験があるためだ。
西沢会長がもう一つ重視するのは「現場の声を大切にし、現場を重視すること」だ。人事課長だった2003年には現場で本当に頑張った人が正しく報われるように、実績を残した社員が希望する部署に移れる人事制度「ドリームチケット」を創設した。保険金サービス部門の担当役員を務めていた10年には、顧客からの声や、現場の社員の問題意識、目標など聞き取り、社員の行動指針となる「SC(サービスセンター)クレド」を作った。ともに今でも現場に浸透し、企業文化の醸成に貢献している。
西沢会長は副社長となった15年、一大決心して介護事業への本格参入を主導した。「高齢化が加速する日本で必ず介護の必要性は高まる。『安心・安全・健康』を掲げる企業のビジョンにも合致する」と判断して200近い新規事業案から選び出した。
ただ、利益を上げにくい介護への参入は容易ではなく、撤退を余儀なくされる企業も多い。当時、参入するための買収に必要となる資金は1000億円に上り、費用回収や事故があった際の信頼低下をめぐり、参入に反対する役員とも対立した。そこで取った行動は現場に徹底して足を運ぶことだ。「集めた介護現場の声や介護の課題を解決する重要性をぶつけることで説得できた」と振り返る。
周りから「困難な仕事を楽しんでいる」と言われる西沢会長が好きな言葉は「雲外蒼天」。難題を努力で乗り越えた先には青い空が待っている―。「実現するまで決して諦めない情熱が仕事には求められる」と社員を鼓舞する。(石川雅基)
【略歴】にしざわ・けいじ 80年(昭55)慶大経済卒、同年安田火災海上保険(現損害保険ジャパン)入社。自動車業務部長などを経て、16年損害保険ジャパン日本興亜社長。22年損害保険ジャパン会長。東京都出身、64歳。