軸受鋼の国内トップ、山陽特殊製鋼社長が考える最大の強み
特殊鋼製造の山陽特殊製鋼は軸受鋼で国内トップを誇る。その最大の強みは「現場にある」というのが信念だ。宮本勝弘社長は新日本製鉄(現日本製鉄)時代、経営企画や財務畑を長く歩んだが、「数字だけで見ても分からない。現場を見て実際にやりとりして初めて数字の後ろが見えてくる」と話す。
“現場”を初めて実感したのは入社早々の燃料金属部時代。原料の予算作成や石炭輸入を担当していたが、当時の先輩社員のアドバイスで自身がチャーターした船を見に行った時という。巨大な姿を目の当たりにして、その迫力に圧倒された。「実際に見なければ分からない」と、つくづく感じたという。
四半世紀以上前、新日本製鉄時代に最若手の社員として合理化計画の策定に携わった時も、現場の大切さにあらためて直面させられた。鉄鋼業界の置かれた経営環境に対応するため、グローバル事業の強化を進める一方、国内の生産拠点の縮小に迫られた。自身も人員削減の計画策定から実行までを担当することになったという。ただ机上のプランでは何事も動かない。実際の計画が現場・現物に基づいてこそ、実行できる。そして意志を持ってやり抜くことの大切さを学んだ。後に名古屋製鉄所の総務部長に就任が決まった時は上司から、日本電産創業者で現会長の永守重信氏の「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という言葉を教えられ胸に刻む。
だからこそ第一線で働く社員とは常にコミュニケーションを絶やさず、現場の力を最大限発揮できるような組織作りに心を砕く。幹部に対しても「発信し続けることが重要」と、中堅や若手の社員と直接に意見交換することを求め、より風通しの良い企業風土の構築を目指している。「現場・現物を踏まえ、変化する経営環境に対応し、進むべき方向性やビジョンを示して、社員と心を一つにしてリードする」と強調してやまない。
日本製鉄では住友金属との経営統合や、日新製鋼の子会社化とその後の経営統合などに深く関わった。さらに山陽特殊鋼の子会社化や、スウェーデンの特殊鋼メーカーであるオバコの買収にも携わってきた。
山陽特殊鋼は2023年で創業90周年。いまや社員も売上高の約7割が海外というグローバル企業だ。豊富なマネジメント経験を生かしながら、今後も「高信頼性鋼の山陽」を掲げて、グローバルに現場・現物を大切にしていく。(姫路・岩崎左恵)
【略歴】みやもと・かつひろ 81年(昭56)一橋大法卒、同年新日本製鉄(現日本製鉄)入社。12年執行役員、15年常務執行役員、18年副社長。21年山陽特殊製鋼社長。大阪府出身、66歳。