「構造変化の転換点にある」鉄鋼業界で加速する再編

新興国開拓やM&A投資も

鉄鋼関連業界で再編の動きが、一段と活発化してきた。新日鉄住金がグループ内の事業再編やM&A(合併・買収)を矢継ぎ早に打ち出すなど、鉄鋼メーカーや鉄鋼流通業者の合従連衡が急速に進んでいる。人口減少に伴う内需先細りへの危機感と、新興国を中心とした外需の伸びに対する期待感が、各社を事業体制の再構築へと突き動かしている。

「人口減少や自動車の軽量化、電動化に向けた動きなどで製鉄事業は構造変化の転換点にある」。新日鉄住金の進藤孝生社長は5月中旬に開いた緊急会見で、事業構造改革が待ったなしの状況にあるとの認識を示した。

この会見で同社は株式を51%保有する日新製鋼を、2019年1月に完全子会社化する方針を表明。併せて新日鉄住金本体と日新製鋼のステンレス鋼板事業を、同年4月に100%子会社の新日鉄住金ステンレス(NSSC)へ一部またはすべて移管し、統合する計画を打ち出した。

3社のステンレス鋼板の国内シェアは冷延薄板で推計6割強に達するが、生産量は年間180万トンと世界最大手の青山鋼鉄(中国)の800万トンに水をあけられている。事業統合で技術やコスト競争力を磨き、世界の強豪に対抗するとともに、環境変化への適応力を高める狙いだ。

新日鉄住金の事業再編はこれだけにとどまらない。溶接ステンレス鋼管でも19年4月をめどに、グループ4社の事業統合や合併に踏み切る。特殊鋼事業ではスウェーデンの有力メーカー、オバコを買収したのに続き、持ち分法適用会社の山陽特殊製鋼を19年3月に子会社化し、オバコを山陽の傘下に置く新体制を決めた。各社の技術や製造基盤、販売網を生かし、ニーズの高度化やグローバル化の動きに対応する。

新日鉄住金は成長が見込まれる新興国市場の開拓でも、M&Aを重要な戦略と位置付ける。インドの鉄鋼業界4位で、経営再建への法的な手続きを進めているエッサール・スチールの買収に向け、地元の裁判所による入札に世界最大の鉄鋼メーカー、アルセロール・ミタル(ルクセンブルク)と共同で応じた。

インドではインフラ関連を中心に、鉄鋼需要の大幅な伸びが見込まれる。エッサール買収は成長市場開拓への足がかりとなり、海外展開に弾みがつく。

エッサールの買収にはJFEスチールが出資するインドの鉄鋼最大手、JSWスチールもロシア系企業と共同で名乗りを上げた。応札はJSW独自の経営判断だが、落札すればJFEスチールにとってもアジア市場の深耕に向けた布石となる可能性がある。JFEスチールの柿木厚司社長も「国際競争の舞台では一定の規模が必要になる。外部との提携やM&Aは将来的にあり得る」と事業体制の再編に前向きだ。粗鋼生産量で世界全体の半分を占める中国の鉄鋼業界でも再編が進み、今後は価格に加えて品質や性能の面でも競争力が高まってくると予想される。中国勢を含む国際競争が激しさを増す見通しの中で、国内鉄鋼メーカーの事業再編やM&A投資も一段と熱を帯びそうだ。

電炉鋼、収益基盤を強化 流通、国際競争にらみ提携


 電炉鋼業界でも再編の動きが急速に強まっている。最近では売上高で業界6位(18年3月期)の合同製鉄が、同11位(同)の朝日工業を友好的TOB(株式公開買い付け)で子会社化する方針を打ち出した。19年2月にもTOBに着手し、完全子会社化を目指す。

 両社はともに鉄筋コンクリート造のマンションなどに多く使われる条鋼が主力。建設向け鋼材の国内需要は人口減少に伴う先細りが予想され、安価な輸入鋼材の流入もあって供給過剰感が強まっている。2社共同で業務効率化と製品の高付加価値化に取り組み、収益基盤を強化する。

 同じく建設向けの条鋼が主体の東京鉄鋼と伊藤製鉄所(東京都千代田区)も経営統合の協議を進めており、4月には統合に先立って資本・業務提携に踏み切った。18年度中にも統合を果たし、業務効率を高めたい意向だ。

 足元では首都圏再開発関連などの需要が盛り上がり、電炉鋼各社の業績はおおむね堅調に推移している。大手・中堅12社の18年4―6月期決算は、原燃料高の影響が一部で見られたものの、多くは値上げ効果などで収益が改善。
 
 大和工業と東京鉄鋼が19年3月期の業績予想で、経常利益と当期利益の見通しをともに上方修正した。

 だが、建設用鋼材の持続的成長は期待しにくく、「施工現場の技能者不足」(東京鉄鋼の柴田隆夫取締役常務執行役員)も深刻化している。

 元来、独立系のオーナー会社が多い電炉鋼業界で再編の動きは鈍かったが、こうした環境変化を引き金とするM&Aが今後続く可能性がある。

 流通業界では系列を超えた再編が加速している。三井物産が新日鉄住金系の日鉄住金物産を持ち分法適用会社化し、鉄鋼事業の一部を移管したほか、三菱商事と双日が出資するメタルワン(東京都千代田区)と住友商事が国内鋼管事業の統合を決めた。

 やはり内需の縮小や新興国を交えた国際競争の激化をにらみ、事業体制を再構築する狙いだ。石油・天然ガス採掘に使う高品位な油井管の需要低迷で悪化した収益を、立て直そうといった思惑もあると見られる。

 独立系商社の阪和興業は、鋼材加工で独創的な技術を持つ中小企業との資本・業務提携に力を入れている。需要家からの難しい要求に応えることで、付加価値を高める狙いだ。

 

日刊工業新聞2018年8月20日

日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
08月21日
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米国などの保護主義的な政策が、鉄鋼生産・流通に大きな構造変化をもたらす可能性もある中で、合従連衡の動きは当分、終息しそうにない。
(日刊工業新聞社・宇田川智大)

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