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「鉄鋼業界の暴れん坊」東京製鉄を指揮する西本社長の経営哲学

「世の中見極め、時代に合う事業を」
「鉄鋼業界の暴れん坊」東京製鉄を指揮する西本社長の経営哲学

西本利一社長

東京製鉄は「鉄鋼業界の暴れん坊」の異名をとる。子会社は皆無、中期経営計画はつくらず、業界団体には入らず、日本製鉄とは「H形鋼戦争」を繰り広げた。国内電炉で初めてホットコイル(熱延広幅帯鋼)を手がけ鉄スクラップを原料に高炉業界の市場に参入してきた。自主独立路線のベースには西本利一社長指揮の地道な技術開発、顧客との関係構築がある。

「自然体で他社を押しのけようとは思わない。価格は自社のものを公表しているだけで相場などとても決められない。世の中の動きを見極め時代にマッチした事業を心がけている」

西本社長の就任は異例だった。2006年、約30年間トップを務めた創業家の池谷正成氏(現相談役)が指名した初の生え抜き社長。当時45歳。役員でない高松工場長だったが、経営工学を専攻し改善に熱心な技術屋は本領を存分に発揮する。

当初、最大の使命は田原工場(愛知県田原市)建設だった。トヨタ自動車のおひざ元で、車分野開拓の狼煙(のろし)を上げた形。投資額は1600億円程度で09年に稼働したが、リーマン・ショック後だけに減損損失を計上。赤字は4期続いた。「雇用に手を付けなかったが、全社が涙をのんだ時期だった」。

21年度の当期利益は前期比5・4倍、9期連続黒字となった。原料価格は「歴史的な高水準」だが、コスト増分を転嫁。22年春闘は特別賞与だけで約27万5000円(35歳平均)を回答した。「田原工場が名実とも旗艦工場にふさわしい利益水準を確保できた」という。

同社は電炉業界で一般的な条鋼類から高炉品種の鋼板類へシフトしてきた。循環型社会の構築や50年に向けた脱炭素対応が求められる中で、二酸化炭素(CO2)排出量が高炉生産の4分の1という電炉業界は世界的に追い風が吹きつつある。

「老廃スクラップは、鉄の地産地消できちんと使い切るべきだ」が持論。世界全体の粗鋼生産は今後増える見通しで「現在7対3程度の高炉―転炉鋼、電炉鋼の比率が50年には半々になるだろう。脱炭素時代には電炉が成長産業になる」と説く。

電炉は高級スクラップを使ってばかりではコスト競争に勝てない。「原料に含まれる元素を選別し、適正に管理できれば、老廃スクラップからでもレーザー切断向け鋼板など高品質鋼材がつくれる」と胸を張る。自社の粗鋼生産で50年に1000万トンを目指して、単なるリサイクルでなく、付加価値を高める“アップサイクル”を実践していく。(編集委員・山中久仁昭)

【略歴】にしもと・としかず 84年(昭59)早大理工卒、同年東京製鉄入社。99年岡山工場製鋼部長、01年同圧延部長、04年高松工場長。富山県出身、61歳。
日刊工業新聞2022年5月10日

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