投資と起業家育成を両立するベンチャーキャピタルの挑戦
課題/VBの東京一極集中
起業する際の環境が地方と主要都市で大きく異なっている。都道府県別に大学発ベンチャー数を見ると、2021年度は東京都が1118社。2位の大阪府と比べて4倍超と他を圧倒する。資金調達や起業に関する知見、情報、人的ネットワークが東京に集中しているからだ。ただ地方創生が叫ばれる中、企業誘致のみならず、地元からスタートアップや起業家を輩出したり育成したりする環境整備は地方こそ不可欠となっている。
解決策/投資・起業家育成を両立
“スタートアップへの投資”と“起業家育成”。「この二つが有機的に循環する、持続可能な地域社会の実現を目指す」。こう力説するのは、ベンチャーキャピタル(VC)であるNES(東京都港区)の今川信宏代表取締役だ。
このほど最大40億円の「NESファンド」を組成した。都市部のスタートアップだけでなく、地方公共団体や地方大学と連携して“大学発・地方発スタートアップ”にも投資する。同ファンドには有限責任組合員(LP)出資者として信金中央金庫や三井住友信託銀行などが名を連ねる。
投資だけでなく、有望投資先への種まきもする。VCは従来、めぼしい企業や起業家を探して投資し、成長を支援してきた。しかし「それは地方で機能しない」と今川代表取締役は指摘する。そこで、「ファンド投資収益の一部を活用して、先に起業家の育成を行う」とし、投資に見合う段階になれば投資する。
さらにLP出資者も起業家育成プログラムに協力する。通常、LP出資者は資金を提供するだけだが、「我々の思いや活動に賛同していただき」(今川代表取締役)、教育プログラムの連携につながった。信金中金や三井住友信託銀はそれぞれの全国網を生かして同プログラムの参加者を募るほか、ビジネスマッチングの支援もする。
さらに上場企業の元経営者なども同プログラムをサポートする。「スタートアップ経営者や事業経験者の方々は実は地方出身者が多い」(同)こともあり、協力を仰いだ。
NESはファンドによる資金支援と人材育成支援の両輪を回しながら、「地方での資金調達やスタートアップの成長の実現を目指す」(同)。短期的な目標として、各教育支援エリアから全国規模の企業を各1社輩出する。
長期的には地域経済をけん引する起業家やスタートアップを生み出せる循環を創出する。「日本のどこにいても社会課題を解決し、イノベーションを起こせる社会を実現させたい」(同)。