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日本発のがん治療薬を生み出す、京大の挑戦

リンパ腫を抑える

京都大学の小川誠司教授らはコーディアセラピューティクス(神奈川県藤沢市)と共同で、新たな作用機序を持つがん治療薬の開発を進めている。コーディアは、武田薬品工業から「日本発の新たながん治療薬を開発したい」と独立した会社。両者による研究開発は必ずしも順風満帆に進んできたわけではないが、成果が生まれつつある。小野薬品工業に導出した研究チームの成果のひとつは、大型案件となった。(大阪・石宮由紀子)

粘膜関連リンパ組織リンパ腫転座1(MALT1)の活性化は、リンパ球系の血液細胞のがん化に影響する。小川教授らはMALT1を、新たな薬剤の標的として同定。MALT1の活性を阻害することで、リンパ球系の血液のがんに対する抗腫瘍効果が期待できるとした。小川教授は「アイデアさえよければいい薬は作れる」と強調する。

のちのコーディアセラピューティクスの創業メンバーとなる森下大輔氏は2013―14年、武田の研究者として米ハーバード大学に留学。同大が位置するボストンは、大学とメガファーマによる産学連携が盛んで、森下氏も産学連携による創薬に関心を抱いていた。ボストン界隈では、「(新たながん治療薬を開発できるのは)セイシ・オガワしかいないと皆、口をそろえていた」(森下氏)と話す。

森下氏は14年に日本に帰国。すぐに小川教授を訪問し、両者で開発に関わる協議を始めた。15年には「成人T細胞白血病リンパ腫に対する新規テーラーメイド治療」というテーマで、日本医療研究開発機構(AMED)の産学連携医療イノベーション創出プログラムに採択。京大や宮崎大学のほか、武田の産官学連携の共同研究としてMALT1阻害薬「CTX―177」の開発が始まった。

研究体制が構築されていくなか、創薬に向けた動きに待ったがかかる。武田はがん治療薬の開発を海外で行う方針を示したのだ。日本発のがん治療薬の開発を諦めきれないことから森下氏ら武田側の研究者らは17年、「コーディアセラピューティクス」として独立することになる。こうした紆余曲折を経て18年、CTX―177の創生が完了。20年には小野薬への導出に成功した。

CTX―177の小野薬への導出を終え、研究チームはパイプライン(新薬候補)の充実化を進めている。スプライシング調節キナーゼCLKを標的とする新規阻害薬「CTX―712」は、そのひとつ。全く新たな作用機序を持つ「ファーストインクラス」の薬剤だ。小川教授は、「いい出来に仕上がっていると考えている」と自信を見せる。

一方開発した治療薬の販売を見据え、他社との連携を加速している。22年に入ってシオノギファーマやメディパルホールディングス(HD)と相次いで提携した。森下氏はこれらの提携の理由について、「シオノギは治験薬の生産、メディパルHDとは治療薬の流通で協業する」と説明する。創薬だけでなく、製販にも力を入れる考えだ。

日刊工業新聞 2022年11月07日

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