自動車・航空機を狙う、中間材開発に乗り出す繊維メーカーたちの戦略
「1回だけの利用はもったいない」。製造時に二酸化炭素(CO2)排出が多い炭素繊維(CF)について、ニッケ研究開発センター素材・技術開発室の福田泰弘氏はこう話す。リサイクル炭素繊維(rCF)市場の立ち上がりを見据え、繊維メーカーが中間材開発に乗り出す動きが活発化してきた。ニッケはウール製不織布の製造技術を活用し、rCFにナイロンやポリプロピレンなどを混合した不織布を開発。少量のサンプル出荷を始めており、現在客先での評価を進めている。自動車のバンパーやスピードメーター周りへの展開を狙う。
東洋紡子会社で不織布を手がけるユウホウ(大阪市北区)もrCF不織布を展開しており、初めての案件として、ミズノが雪駄のミッドソールに採用している。ユウホウのrCF不織布はプレスで、複雑形状に加工できるのが特徴だ。
CFと複合する樹脂はエポキシなど熱硬化性樹脂が使われることが多く、硬化に時間がかかるなど生産コストが高い。そのため、市場規模が大きい自動車分野では導入が進んでいないのが実情だ。そこでニッケやユウホウでは、rCFを熱プレスなど加工が容易な熱可塑性樹脂と混合して中間材を開発。自動車向けをターゲットとする。
ただrCFは、バージン素材のCFよりも強度で劣ることが課題となっている。抽出工程での破砕や熱分解などで繊維長が短くなったり、繊維がもろくなったりするためだ。日本化学繊維協会が10月末にまとめた「炭素繊維サステナビリティビジョン2050」でも、rCFの品質を正確に評価する手法が必要だと指摘する。ユウホウは、強度が落ちたrCFをハンドリングする技術を開発することで不織布化に成功した。
一方、バージン素材と同等の強度を維持した水平リサイクルにこだわるのは富士加飾(兵庫県小野市)だ。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の大型成型品や長尺プリプレグから、新品と同等の強度でrCFを取り出す技術を確立した。自社開発の乾留装置で、酸素濃度を精密に制御する独自の熱分解法で実現。欧州航空機メーカーとの共同研究を23年度から計画している。鉄鋼やアルミニウムなど金属材料と同様にCFを水平リサイクルできる体制の構築を目指し、杉野守彦社長は「欧州航空機メーカーが欲しがる技術を作っていく」と力を込める。(大阪・友広志保が担当しました)