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持続可能な食追求…サーモン陸上養殖に挑む商社たちの今

持続可能な食追求…サーモン陸上養殖に挑む商社たちの今

FRDジャパンのサーモンは水温・水質・餌など全ての飼育条件を緻密に管理して養殖する

人口増加や新興国を中心とした食生活の質的向上や健康志向の高まりなどにより、サーモンは良質な動物性たんぱく源として需要が増加する。ただ、天然魚の漁獲高は頭打ちで、海面養殖による生産も大きな伸びは期待できない。そこで大手商社が力を入れるのが、環境への負荷が低く、サステナブル(持続可能)で安定的な生産を可能にする閉鎖循環式によるサーモンの陸上養殖だ。(編集委員・中沖泰雄)

ロシアやアラスカなどでの天然サーモンの漁獲高は年間約100万トンで頭打ち。養殖の生産量は同約300万トンで増加傾向にあるが、70%以上はノルウェーとチリで生産されている。つまり年間を通して海水温が低く、天候や波が穏やかであるなど海面養殖に適した地域は限られる。

その中で注目されるのが地理的制限を受けない閉鎖循環式陸上養殖だ。技術的なハードルが高いことなどから当面は海面養殖が中心になるが、グローバルに増え続けるサーモン需要に対応するために海面養殖を補完する不可欠な技術だ。

さらに自然環境に依存せずサステナブルかつ安定的に生産できるとともに、地産地消が可能になる。輸送距離を短縮化することで温室効果ガスの削減も見込める。

閉鎖循環式、飼育環境DXで最適化

従来の循環式陸上養殖は硝酸など除去できない物質の蓄積を防ぐため、最低でも1日当たり30%程度の水替えが必要だった。これに対し、三井物産が出資するFRDジャパン(さいたま市岩槻区)は硝酸をバクテリアで除去する「脱窒装置」を開発。これにより蒸発で失われる水分などの補給を除き、水替え不要の閉鎖循環式による陸上養殖が可能になった。

「同じサーモンでも(種類が異なれば)維持するべき水質が違う」(FRDジャパン)とサーモンの陸上養殖は難しいが、閉鎖循環式陸上養殖の技術を確立できたことから、2025年をめどに生産を現状比67倍の年間2000トンに引き上げる。

そのため23年以降に新プラントの建設に着工する計画で、ふ化から養殖、出荷までワンストップで可能な体制を整える。場所は複数の候補地の中から調整を進めている。将来はアジア地域を含めてプラントを展開して同1万トンを目指す。

すでに木更津プラント(千葉県木更津市)で生産したサーモンを「おかそだち」として商品化し、スーパーなどで販売している。水温・水質・餌など全ての飼育条件を緻密に管理して養殖したサーモンを一度も冷凍せずに供給できるのが売りだ。FRDでは「他の魚種にも挑戦していきたい」と閉鎖循環式陸上養殖の可能性を追求する。

三菱商事は完全子会社であるノルウェーのセルマックによる海面養殖に続き、サーモンを陸上養殖する新会社をマルハニチロと共同出資で10月をめどに設立する。約110億円を投じ、富山県入善町に2500トン(原魚ベース)規模の閉鎖循環式による陸上養殖施設を建設、25年度の稼働開始と27年度の出荷を目指す。

三菱商事は陸上養殖事業に参入するため、18年頃からセルマックと、採用するシステムや施設を建設する場所などの検討を進めてきた。同社の22年3月期は過去最高の当期利益を達成して三菱商事の業績に貢献。そのセルマックの養殖技術を活用するとともに、陸上養殖で得た知見を海面養殖にも生かす。

三菱商事はデジタル変革(DX)に積極的に取り組んでいるが、今回の事業でも人工知能(AI)とIoT(モノのインターネット)を駆使することで、飼育環境を管理・最適化し、安定的で効率的な生産体制を構築する。電力は洋上風力など再生可能エネルギーの使用を検討する。

養殖場の水は黒部川の伏流水と富山湾の海洋深層水を活用。特に海洋深層水は清浄性・低温安定性という特徴があり、養殖環境を陸上で実現するために必要なエネルギー使用量を抑えられる。さらに地域で産業と雇用を創出して地域創生につなげていく。

ブランド構築・販売 海外企業と連携

丸紅はノルウェーのプロキシマーシーフードが静岡県小山町で建設中の閉鎖循環式陸上養殖場で生産するサーモンを、24年から10年間、国内で独占販売する。プロキシマーは22年中にふ化施設から稼働を始め、23年に完工する。出荷初年となる24年の出荷数量は約2500トン、2027年のフル稼働時には約5300トンを出荷する。

丸紅はプロキシマーシーフードが静岡県で陸上養殖するサーモンの国内独占販売で合意した

丸紅は子会社のベニレイを中心として日本市場に天然・海面養殖サーモンを供給している。閉鎖循環式陸上養殖サーモンについても世界トップレベルの生産実績を持つデンマークのダニッシュ・サーモンに出資して事業運営を始めている。

丸紅とプロキシマーは国産のサステナブルな水産物として閉鎖循環式陸上養殖サーモンのブランド構築を目指し、環境配慮型食料事業を拡大するとともに、食の安定供給につなげる。

伊藤忠商事は極洋と、ポーランドでサーモンの陸上養殖を展開するピュアサーモングループの日本法人であるソウルオブジャパン(東京都港区)が、津市に建設している世界最大級の閉鎖循環式陸上養殖場で生産するサーモンを25年から販売する。

ピュアサーモングループはポーランドに閉鎖循環式陸上養殖場を保有し、18年に商品として販売できる大きさのサーモンの飼育に成功した。海水ではなく人工海水で飼育し、海水からの病気侵入リスクを減少するとともに、濾過技術で飼育水を循環利用し、環境負荷も低減している。

日本でも同様の技術を活用し、年間1万トンの生産を計画する。

日刊工業新聞2022年8月19日

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