総合商社でサーモンの陸上養殖に力を入れているワケ

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丸紅が買収したダニッシュ・サーモンの閉鎖循環式陸上養殖施設

総合商社がサーモンの陸上養殖に力を入れている。新興国の経済成長や健康志向の高まりで世界的に魚介類の消費が増える中、サーモンの需要が拡大。海面養殖に比べ環境負荷が小さい陸上養殖は国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成の面でも注目される。コスト高が課題として残るものの、丸紅は養殖技術を持つデンマーク企業を買収し欧米市場向けに展開、三井物産は国内の養殖施設を増設するなど、取り組みが活発化している。(森下晃行)

世界で消費拡大

国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の1人当たり魚介類の年間消費量は20キログラムを超える。世界の魚介類の総生産量は約1億7900万トン(18年時点)、うち約8210万トンが養殖だ。天然水産物の漁獲高は90年以降ほぼ横ばいだが、養殖の生産量は同時期から増え続けている。

「すしなど日本食の世界的な広がりや健康志向の高まりで、特にサーモンの需要が高まっている」と丸紅の中村一成生鮮食材部長は指摘する。同社によれば、世界のアトランティックサーモン消費量は17年時点で欧州が年間約102万トン、米国が同約44万トンで「米国の需要拡大が著しい」(中村部長)という。

同社は20年、デンマークで「閉鎖循環式」という養殖を手がけるダニッシュ・サーモンを買収した。海面養殖と異なり、陸地の施設で人工海水を濾過・循環させるため水質や温度を管理しやすい。「餌が海洋汚染を引き起こさず、逃げ出した魚が生態系に悪影響を与えることもない」と中村部長はSDGs面の利点も強調する。

ITで餌を調整

適切な餌の量を調整しコスト削減につなげるため、丸紅はIT企業と協力し画像解析による管理システムを20年夏に導入した。排水パイプにカメラを設置し、海水に混じって廃棄される餌の量を調べる。現在は実証実験中で、21年中に実用化する見通しだ。

海外市場向けの養殖を手がける丸紅に対し、三井物産は出資するFRDジャパン(さいたま市岩槻区)を通じ国内市場向けの陸上養殖を展開する。「25年頃には2000トンを出荷できるようにしたい」とFRDジャパンの十河哲朗取締役最高執行責任者(COO)は力を込める。現在は年間30トンを養殖する。

同社はさいたま市と千葉県木更津市で陸上養殖用プラントを運営し、「おかそだち」というブランドで国内販売する。

22年からプラントの増設を開始、その後は国内だけでなくアジア市場向けにも展開を視野に入れる。「物流コストの抑制や鮮度の良さがアピールポイントになる」と十河COOは説明する。

コストが課題

三菱商事はノルウェーの養殖事業者セルマックを子会社として保有。伊藤忠商事も19年にピュアサーモンの日本法人と養殖サーモンの国内販売契約を結んだ。総合商社にとって陸上養殖は注目事業の一つだが、海面養殖に比べコスト面で課題が残る。

FRDジャパンの十河COOは「閉鎖循環式はまだ規模が小さい」と指摘。コスト削減には養殖施設の拡大などスケールアップが必要という。また、日本の消費者はSDGsへの関心が高いとはまだ言えず、陸上養殖の付加価値をどれだけ訴求できるかも課題になりそうだ。

日刊工業新聞2021年5月21日

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