AIで化学プラント自律制御、横河電機は世界初の事例をいかに生み出したか
横河電機はプラントの操業をつかさどる制御システムの大手。人工知能(AI)を活用したプラントの自律制御の実用化に向け、研究や実証を進めてきた。1―2月にはJSRの化学プラントで実証を実施し、35日間連続でのAIによる自律制御に成功した。世界初の事例だという。
化学プラントは国内にあるが、具体名は非公表。JSRの事業譲渡により、4月1日からはENEOSマテリアル(東京都港区)が運営している。化学プラントの製品精製に重要な蒸留塔の作業を運転員の代わりにAIで自律制御できた。
この化学プラントでは、ブタジエンを精製している。蒸留塔では沸点が近い2種類のブタジエンを分離するために、バルブを開けて排熱で蒸留塔を加熱する作業がある。雨や雪、気温など天候の変化に対応する必要があり、ベテラン運転員がノウハウを駆使して対処していた作業をAIで自律制御できた。
実際の化学プラントの操業で失敗するわけにいかず、横河は慎重に準備した。
第1段階として、この化学プラントのシミュレーターで、AIの制御モデルを生成した。AIに化学プラントの状況を理解させるためだ。続いて、運転員の協力を得て、過去2年間の操業データを学習させた。それによって安定的に操業できることを確認し、ベテラン運転員のお墨付きを得た。
さらに、AI自律制御を横河の統合生産制御システムに統合し、プラント操業に組み込んだ。これにより同システムの安全機能が働くため、AI自律制御に異常が発生しても対処できるようにした。これらの準備の上でAI自律制御を実施し、問題なく操業できた。
鹿子木宏明横河プロダクト本部コントロールセンターゼネラルマネージャーは「ベテランのノウハウを学習させたわけではない」とAI自律制御の特徴を説く。目標とするアウトプットに向けて制御モデルを生成した結果であり、将来はベテランを超えるレベルの操業を実現できる可能性がある。
化学に限らずプラント操業はベテラン頼みの側面があり、彼らの退職によるノウハウ伝承が課題となっている。AI自律制御が定着すれば、運転員が現場に張り付いて操業する必要がなく、ベテラン不在を補える。
横河は今後、AI自律制御をサービスとして確立し、早期の提供を目指している。今回の実証成功は大きな一歩と言える。将来はAIがプラントの操業を担うことが、当たり前になるかもしれない。(戸村智幸)