産業界に広がる「SDGs」を知っていますか?経団連、行動憲章を改定
国連の2030年目標「持続可能な開発目標(SDGs)」への取り組みが、産業界に広がっている。経団連は17年11月、企業行動憲章を改定してSDGs達成への貢献を柱に据えた。経営戦略にSDGsを組み込む企業も出始めた。日本企業のSDGsへの取り組みは海外企業より出遅れた印象があったが、産業界に一体感が出てきた。
経団連は会員が順守する企業活動の指針として行動憲章を制定している。改定では第1条を「イノベーションを通じて社会に有用で安全な商品・サービスを開発、提供し、持続可能な経済成長と社会的課題の解決を図る」とした。これまでの憲章になかった「イノベーション」を盛り込んだ第1条が、SDGs達成への決意を表している。
SDGsは目標9に「産業と技術革新の基盤をつくろう」を掲げる。イノベーションは目標2(食糧)、3(健康・福祉)、4(教育)、6(水の衛生)など、他の目標達成にも欠かせない。
SDGsは、途上国にも先進国にも共通する課題の解決を目標とする。日本企業は解決に貢献する技術を開発できれば、世界市場の競争で優位に立てる。社会的責任を果たしながら、目標8(経済成長)も両立できる。イノベーションで持続的成長を追求する意気込みが、第1条に凝縮された。
業界団体では日本化学工業協会が17年5月、SDGs達成に向けた業界ビジョンを策定した。社内推進の手引書となる事例集も作成し、会員に配布する。日本証券業協会は同9月、鈴木茂晴会長が座長を務める「SDGsの推進に関する懇談会」を設置した。成長力を備えた企業を選ぶESG(環境・社会・企業統治)投資を通してSDGsに取り組む。
SDGsを経営目標に組み込んだり、新規事業の創出に活用したりする企業が増えている。住友化学は役員一人ひとりがどの目標達成に貢献するかを表明している。役員はスーツの胸に「SDGsバッジ」を付け、経営陣が先頭に立つ姿勢を明確にした。
横河電機は17年8月、2050年に向けた「サステナビリティ目標」を公表した。サステナビリティ推進室の古川千佳室長は「事業の機軸になるように経営陣から明示された」と語り、SDGsの理念を反映させた。
コニカミノルタは、バングラデシュに健康診断制度を根付かせる試行事業が国際協力機構(JICA)の「SDGsビジネス調査」に採択された。クラウドを活用し、医療環境が未整備でも健康診断が受けられるシステムを構築する。
同社にとって今は医療機器を売った利益の方が大きいが、30年に年1000万人が健診サービスを利用すると受診料が安定収入になる。SDGsの目標2(健康)を将来の市場ニーズと捉えた。
SDGsは2030年のマーケット予測でもあり、新事業のヒントが詰まっている。「2025日本万国博覧会誘致委員会」は17年12月、都内で「2025未来社会デザイン会議」を開いた。30年時点で会社を背負う若手社員が、SDGsをテーマに練った新ビジネスを発表した。
「米粒サイズのセンサー『モミ子』の出番です」。クボタの黄善敏(ファンソンミン)さんが語り出すと、スクリーンにモミ子のイメージ画像が映し出された。人事部所属の黄さんなど4人がSDGsを読み込んで着想した。
モミ子は収穫した米など作物に混ぜておくと輸送中の品質データを収集、報告してくれる。村や集落単位のカロリーマップ、搬送距離や費用の計算にもデータを活用し、最適な食糧分配を割り出す。目標12の「食品廃棄物半減、サプライチェーンの損失削減」という定量目標がヒントとなった。
他にもパナソニック、村田製作所、コクヨ、丸一鋼管などの若手が未来の事業を発表した。審査員を務めた芸人の木村祐一さんは「発見の連続で、尊敬しながら恐縮しながらの審査だった」と語った。木村さんが所属する吉本興業は、いち早くSDGsへの賛同を表明した1社だ。
【経団連企業行動・CSR委員長(損保ジャパン日本興亜会長)・二宮雅也氏インタビュー】
―「企業行動憲章」にSDGsを反映した理由は。
「前回の改定(10年)からビジネス環境が変化した。ビジネスと人権に関する指導原則、パリ協定、そしてSDGsが出てきて、社会が企業に何を求めているのか、はっきりした」
―SDGsをどのように受け止めていますか。
「日本が目指す未来社会『ソサエティー5・0』の実現が、SDGsと一致する。ソサエティー5・0が明確となり、海外にもわかりやすく説明できる。17年7月、国連の会議に出席した時、『SDGsは“BDGs”と読み替えられる』との発言を耳にした。Bは“ビジネス”であり、SDGsが市場獲得の機会となっている」
―日本企業の取り組みは。
「17年に浸透スピードが上がった。各社が経営計画に落とし込んだり、報告書に記載したりしている。しかし全体に浸透したわけではない。経団連として情報発信を続ける」
―SDGsは、ESG投資の基準となります。
「まさにESG投資が急拡大している。ESGへの取り組みはmust(しなければならない)となり、長期視点の経営になっていく。企業の存在意義は、社会ニーズを満たすこと。ESGは“地球基準”であり“地球の大義”だ。企業の正しい“たたずまい”でもある。ESGとSDGsが成長にプラスとなる」
―SDGsの推進で重要なことは。
「成果を示す段階に入った。日本にも取り組みがあるが、発信が上手ではない。海外で発信してほしい。経営トップが確信を持ち、繰り返し発言することも必要だ。1社ですべてができるとは思っていない。SDGsの視点で考えると、産学官の連携などいろいろな組み合わせができる」
(文=松木喬、梶原洵子)
世界共通の課題解決
経団連は会員が順守する企業活動の指針として行動憲章を制定している。改定では第1条を「イノベーションを通じて社会に有用で安全な商品・サービスを開発、提供し、持続可能な経済成長と社会的課題の解決を図る」とした。これまでの憲章になかった「イノベーション」を盛り込んだ第1条が、SDGs達成への決意を表している。
SDGsは目標9に「産業と技術革新の基盤をつくろう」を掲げる。イノベーションは目標2(食糧)、3(健康・福祉)、4(教育)、6(水の衛生)など、他の目標達成にも欠かせない。
SDGsは、途上国にも先進国にも共通する課題の解決を目標とする。日本企業は解決に貢献する技術を開発できれば、世界市場の競争で優位に立てる。社会的責任を果たしながら、目標8(経済成長)も両立できる。イノベーションで持続的成長を追求する意気込みが、第1条に凝縮された。
業界団体では日本化学工業協会が17年5月、SDGs達成に向けた業界ビジョンを策定した。社内推進の手引書となる事例集も作成し、会員に配布する。日本証券業協会は同9月、鈴木茂晴会長が座長を務める「SDGsの推進に関する懇談会」を設置した。成長力を備えた企業を選ぶESG(環境・社会・企業統治)投資を通してSDGsに取り組む。
企業の先進事例
SDGsを経営目標に組み込んだり、新規事業の創出に活用したりする企業が増えている。住友化学は役員一人ひとりがどの目標達成に貢献するかを表明している。役員はスーツの胸に「SDGsバッジ」を付け、経営陣が先頭に立つ姿勢を明確にした。
横河電機は17年8月、2050年に向けた「サステナビリティ目標」を公表した。サステナビリティ推進室の古川千佳室長は「事業の機軸になるように経営陣から明示された」と語り、SDGsの理念を反映させた。
コニカミノルタは、バングラデシュに健康診断制度を根付かせる試行事業が国際協力機構(JICA)の「SDGsビジネス調査」に採択された。クラウドを活用し、医療環境が未整備でも健康診断が受けられるシステムを構築する。
同社にとって今は医療機器を売った利益の方が大きいが、30年に年1000万人が健診サービスを利用すると受診料が安定収入になる。SDGsの目標2(健康)を将来の市場ニーズと捉えた。
30年の市場占う
SDGsは2030年のマーケット予測でもあり、新事業のヒントが詰まっている。「2025日本万国博覧会誘致委員会」は17年12月、都内で「2025未来社会デザイン会議」を開いた。30年時点で会社を背負う若手社員が、SDGsをテーマに練った新ビジネスを発表した。
「米粒サイズのセンサー『モミ子』の出番です」。クボタの黄善敏(ファンソンミン)さんが語り出すと、スクリーンにモミ子のイメージ画像が映し出された。人事部所属の黄さんなど4人がSDGsを読み込んで着想した。
モミ子は収穫した米など作物に混ぜておくと輸送中の品質データを収集、報告してくれる。村や集落単位のカロリーマップ、搬送距離や費用の計算にもデータを活用し、最適な食糧分配を割り出す。目標12の「食品廃棄物半減、サプライチェーンの損失削減」という定量目標がヒントとなった。
他にもパナソニック、村田製作所、コクヨ、丸一鋼管などの若手が未来の事業を発表した。審査員を務めた芸人の木村祐一さんは「発見の連続で、尊敬しながら恐縮しながらの審査だった」と語った。木村さんが所属する吉本興業は、いち早くSDGsへの賛同を表明した1社だ。
企業の正しい“たたずまい”
【経団連企業行動・CSR委員長(損保ジャパン日本興亜会長)・二宮雅也氏インタビュー】
―「企業行動憲章」にSDGsを反映した理由は。
「前回の改定(10年)からビジネス環境が変化した。ビジネスと人権に関する指導原則、パリ協定、そしてSDGsが出てきて、社会が企業に何を求めているのか、はっきりした」
―SDGsをどのように受け止めていますか。
「日本が目指す未来社会『ソサエティー5・0』の実現が、SDGsと一致する。ソサエティー5・0が明確となり、海外にもわかりやすく説明できる。17年7月、国連の会議に出席した時、『SDGsは“BDGs”と読み替えられる』との発言を耳にした。Bは“ビジネス”であり、SDGsが市場獲得の機会となっている」
―日本企業の取り組みは。
「17年に浸透スピードが上がった。各社が経営計画に落とし込んだり、報告書に記載したりしている。しかし全体に浸透したわけではない。経団連として情報発信を続ける」
―SDGsは、ESG投資の基準となります。
「まさにESG投資が急拡大している。ESGへの取り組みはmust(しなければならない)となり、長期視点の経営になっていく。企業の存在意義は、社会ニーズを満たすこと。ESGは“地球基準”であり“地球の大義”だ。企業の正しい“たたずまい”でもある。ESGとSDGsが成長にプラスとなる」
―SDGsの推進で重要なことは。
「成果を示す段階に入った。日本にも取り組みがあるが、発信が上手ではない。海外で発信してほしい。経営トップが確信を持ち、繰り返し発言することも必要だ。1社ですべてができるとは思っていない。SDGsの視点で考えると、産学官の連携などいろいろな組み合わせができる」
(文=松木喬、梶原洵子)
日刊工業新聞2018年1月18日