経営統合が破談になった三洋化成、「全樹脂電池」に1000億円投資で成長路線示す

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6月に社長に就任する樋口章憲副社長(右)と会長に就く安藤孝夫社長

日本触媒との経営統合が破談となり、単独での成長戦略を進める三洋化成工業。巨大化する化学メーカーや勢いを増す新興国メーカーに対抗し、生き残っていく上で期待を寄せるのが新型リチウムイオン二次電池「全樹脂電池」だ。関係会社のAPB(東京都千代田区)が5月から世界で初めて量産する。カーボンニュートラルの潮流に乗り、大化けする可能性を秘める。

「世界を変えると確信し、9年前から堀江英明最高経営責任者(CEO)と取り組んできた。この日を迎えられてうれしく思う」―。2月半ば、三洋化成の安藤孝夫社長はAPB武生工場(福井県越前市)の新棟の地鎮祭を感慨深く迎えた。7月までに電池生産棟、電池の充・放電、劣化具合や品質を調べる検査棟が完成する。

全樹脂電池は電極など構造部材を樹脂で構成。切断しても穴を開けても発火しない安全性が強みだ。樹脂製の正・負極の各集電体に活物質であるゲルポリマーを塗工、セパレーターを挟んで重ね、シールするのみと、工程を大幅に簡素化した。

従来電池に必要な活物質塗工後の乾燥工程が不要で、全樹脂電池のゲルポリ塗工ラインの長さは従来電池比で5―10分の1程度で済む。工場面積や乾燥にかかる使用電力も極限に抑えられる優位性を国内外に訴求する。

専用設備は出資者の新東工業と共同で開発。将来は材料投入から品質検査終了まで、設備内で人が介在しない生産の完全自動化を見据える。

三洋化成のポリマーに加え、出資者のJFEケミカルや帝人などが電極材料を供給。製造設備には横河電機製のセンサーなどを配置し、データを集約する。武生をマザー工場に技術・材料・専用設備をパッケージ化して提案し、まずは本丸の再エネ用定置型蓄電池の市場を攻略。2025年には約1000億円を投じて年産能力数十ギガワット時級の次世代工場を計画する。

三洋化成が全樹脂電池に並々ならぬ意欲を注ぐ背景には、社員のモチベーション向上という意味合いもある。20年10月、安藤社長は日本触媒本社で五嶋祐治朗社長に経営統合中止を申し入れた。統合に向けて進んでいた分科会の解消など従業員の精神的ダメージは少なくない。だからこそ「(新事業の)拡大を遅らせたくなかった」(安藤社長)。

25年に売上高900億円を掲げてる。それまでは特殊用途向けの販売以外考えていない。6月に社長に昇格する樋口章憲副社長は「2023年には赤字から黒字化に転換させたい。達成できれば25年以降は飛躍的に拡大していくと期待している」と話す。

温室効果ガス排出量を実質ゼロにする政府の脱炭素目標などを追い風に、二次電池の需要はますます広がる。川上から川下までさまざまな業種から複数の出資者を募り、オープンイノベーションで開発、生産、販売を進めていくAPBの戦略は、スピードが重視される変化の時代に適している。三洋化成の挑戦は日本企業に求められる新たなビジネスモデルの試金石になる。

APB武生工場で量産する全樹脂電池
(取材=京都・大原佑美子)

日刊工業新聞2021年2月26日の記事に加筆

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