【ディープテックを追え】鉄スクラップ活用促進するスタートアップの正体
製鉄業は製造時に多くの二酸化炭素(CO2)を排出する。カーボンニュートラルに向けて、製鉄各社は鉄鉱石を使う高炉法よりもCO2排出を抑えられる鉄スクラップの活用に注目が集まる。その反面、金属の種類ごとに鉄スクラップを選別することが難しかった。東京大学発スタートアップのエバースチール(東京都文京区)はカメラと人工知能(AI)を使い、鉄スクラップの分別を効率化する製品を開発。環境意識の高まりを背景に事業拡大を狙う。
鉄スクラップの課題
鋼材の製造方法は大きく分けて二つある。鉄鉱石に石炭由来の原料をまぜて酸素を取り除く高炉法と、鉄スクラップを電気で溶かしてつくる電炉法だ。電炉法は高炉法に比べて、CO2排出を4分の1程度に抑制できると言われる。
一方、鉄スクラップはリサイクル用途で収集するため、鉄以外の金属が混入するリスクが付きまとう。リサイクルするには不純物を見つけ取り除く必要がある。エバースチールの田島圭二郎最高経営責任者(CEO)は「目視で不純物を見つける現在の方法では、選別の精度に限界がある」と指摘する。
合金は不純物が多くなると強度が低下するため、不純物が混じる可能性がある鉄スクラップから高品質な部材を作ることが難しかった。このため、自動車用の需要が大きい日本では、国内粗鋼生産の7割を高炉法が占めているのが実情だ。また、鉄スクラップは等級を正しく判断することも難しい。CO2排出抑制の観点から電炉法を普及させるには、不純物と等級判断を正しく行い、リサイクルから品質が高い部材を作り出す必要がある。
AIで不純物の検出と等級判断
エバースチールは、この課題をAIで解決することを目指す。積載された鉄スクラップを磁選機で分別する様子をカメラで撮影。この画像をAIで分析し、不純物の検出とスクラップの等級を判断する。不純物検出はモーターやバルブなど、銅が使われる製品をAIが認識する。同社によれば60%以上の精度で不純物を検出できるという。
等級判断では撮影した画像から、スクラップのサイズや厚みを判定。それを基に鉄スクラップの種類や品質、割合を算出する。通常、鉄スクラップのように認識したい対象物と背景の境界がはっきりしない場合、画像認識の技術的ハードルが高いとされる。同社はこのような場面でも対象物を認識できる専用のAIを開発した。
現在は複数社の概念実証(PoC)を行っている。2022年の夏ごろにはベータ版をリリースし製品化に向けて検証するほか、今後は認識できる不純物の種類を増やす。現在は銅を含む不純物を対象にするが、スズなどへ広げる計画だ。また、頻出度が低いボンベなどの不純物も認識できるようにする。将来はロボットアームを使って不純物を取り除いたり、海外企業との連携で鉄スクラップの統一基準の策定も行いたいという。田島CEOは「分別が効率化されれば、質の高い部材を鉄スクラップで作れる。そうすればリサイクルが広がるはずだ」と展望する。
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