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逆風でも過去最高益、トヨタの業績を裏打ちする10年の取り組み

逆風でも過去最高益、トヨタの業績を裏打ちする10年の取り組み

商品を軸にした経営に取り組んできた(21年12月のEV戦略会見でプレゼンテーションする豊田章男社長)

トヨタ自動車の経営体質強化策が、成果となって見えてきた。2022年3月期連結決算(国際会計基準)は工場の稼働停止など逆風があったが、過去最高益を達成。堅調な新車販売と生産台数に加え、10年ほど前から実施してきた商品力向上や原価改善の取り組みが業績を裏打ちする。ただエネルギーを含めた資材価格の高騰、長引く半導体不足など、23年3月期も厳しい経営環境は続く見通し。視界不良の中、地力を高めたトヨタのかじ取りが注目される。

最高益更新 海外販売が回復

過去最高の利益を更新した最大の要因は、新型コロナウイルス感染症からの回復に伴う販売台数の増加だ。日本以外の全地域で販売台数が伸長。営業利益も北米が前期比46・8%増の5325億円、欧州が同50・1%増の1717億円、アジアが同50・6%増の6571億円、その他地域は同3・5倍の2307億円と大幅に伸びた。日本は国内での販売台数は減少したが、輸出分を合わせて営業利益は同23・9%増の1兆4255億円を達成。全地域で利益が増えた。

このほか為替の円安による増益要因が6100億円だった。資材価格高騰に伴い6400億円の減益影響があったが、これら増益要因と2800億円の原価改善効果も合わせてマイナス分をカバーした。オンライン会見した近健太副社長は、長年の体質改善の成果として「カンパニー制の導入や、地域ごとに最適な商品展開、商品力や性能の向上などに取り組んできた」と強調。22年3月期に09年3月期比で損益分岐台数を30―40%引き下げたことや、主要11カ国でのシェア拡大といった事例を紹介した。

23年3月期は、資材価格高騰の影響が、前期の倍以上に膨らむ。山本正裕経理本部長は「大変難しいが、年3000億円レベルの原価改善を続ける」としたほか、「材料使用量の低減などを検討したい」と対策を説明した。また仕入れ先が扱う材料価格については、近副社長が「原則トヨタが負担するルールがある。完成車メーカーや仕入れ先の区別なく、皆で対応せねばならない」と話した。

先行き不透明だが、23年3月期はトヨタ・レクサスブランドとして過去最高となる970万台の生産台数見通しを置く。山本本部長は「コロナ禍や半導体など、現時点で分かっていることを盛り込んだ。これを基準に進める」と説明した。

トヨタ・レクサス今期990万台

トヨタはトヨタ・レクサスブランドとして、23年3月期の販売台数見通しを前期比4・1%増の990万台とした。ウクライナ情勢の先行きや資材リスクなど、経済環境が不透明な中でも過去最高を更新する強気の数字だ。

長田准執行役員は「市場の見通しは非常に難しい」としつつ、プラス要素として「中国ではゼロコロナ政策が続いているが、グローバルではコロナからの回復が相当働く」ことを挙げる。反対にマイナス要素は「資材高やいろいろな形のインフレが及ぼす影響を懸念している。半導体の供給制約も大きい」と慎重に見る。

地域別販売では中国、北米は22年3月期に比べ伸び、日本、アジアは横ばいとの前提を置く。欧州は「一番読みにくく、難しい」(長田執行役員)という。エネルギーや資材の面でウクライナ情勢の影響が大きく、経済や景気に関与するリスクが高い。前期に比べ新車市場が縮小する可能性は高い。複数の不確定要素が混在する状況で、長田執行役員は「刻々と変わる状況に合わせて基準を変えて、事業改善を回して行きたい」とする。

初の専用車投入、EV加速度増す

23年3月期は、トヨタにとって電気自動車(EV)投入を本格化する年でもある。12日には初のEV専用車「bZ4X」を、今冬以降には、高級車ブランド「レクサス」初のEV専用車「RZ」の発売を予定する。

トヨタ・レクサスブランドにおける電動車販売台数は、前期比13・6%増の307万台の見通し。そのうちEVは同約6倍の9万5000台を見込む。前田昌彦副社長は「EVに対する加速度が増している」と断言する。背中を押すのは欧米を中心とする厳しい環境規制の導入だ。「規制と市場動向が今まで以上に強まっている」(前田副社長)。

ただEV用電池は希少金属を多く使っており、資材高騰は車両生産コストに大きく響く。また各国・地域の政府などによるEV関連補助金の動向も消費者の購入意欲を左右する。「バランスを見ながら慎重に対応する必要がある」と前田副社長は気を引き締める。

資材高騰が圧迫 仕入れ先支援、連携密に

仕入れ先とのより密な連携を加速させる(イメージ)

トヨタは10年ほど前から地道な収益体質改善策を続けてきた。複数車種のプラットフォーム(車台)やモジュール(複合部品)の共通化と合わせ、生産方式なども効率化して原価低減を図る設計開発思想「TNGA」に12年に着手。ダイハツ工業、日野自動車を含むグループ総販売台数を元にした比較では、13年3月期に13万6000円だった販売1台当たりの営業利益は、21年3月期に22万2000円まで上昇した。ロングセラー車種の展開強化や地域別のニーズを取り入れた商品力の強化も、取り組みの一つだ。

ただ積み上げてきた“稼ぐ力”に重くのしかかるのが、非常事態とも言える資材価格の高騰。トヨタ以上に影響を受けているのが、中堅・中小サプライヤーだ。特に2次以降の階層の深い仕入れ先では「あらゆるコストが上がっており、このままでは赤字に転落する」(鍛造部品メーカー)との声も漏れる。

そこでトヨタは資材高騰分の負担と合わせ、仕入れ先に対する細かい聞き取りを開始。2次、3次仕入れ先の生産現場に入り、改善活動の支援や、ムダを削減する取り組みも始めた。毎年、取引先に求めている原価改善活動に伴う部品価格の引き下げ要請も、現在はストップしている。

3万点もの部品から成る自動車は、完成車メーカーと仕入れ先との連携が欠かせない。仕入れ先支援によるより密な関係性構築と、それに伴う生産変動への対応力・商品力の向上の好循環を回せれば、競争力はさらに高まる。

日刊工業新聞 2022年5月12日

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