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部品不足でも強さ目立つ…「軽自動車」が進化を遂げている

部品不足でも強さ目立つ…「軽自動車」が進化を遂げている

新型「アルト」と鈴木俊宏社長(21年12月)

国内を主力とする軽自動車が、生活に不可欠な「足」として普通車と異なる進化を遂げている。郊外や地方での根強い短距離移動ニーズに加え、コロナ禍で一人で乗るセカンドカーとしても、低価格で取り回しのよい軽の存在感は高まった。軽ではトヨタ自動車子会社のダイハツ工業、スズキ、ホンダ、日産自動車・三菱自動車連合のNMKV(東京都港区)がしのぎを削り、電動化も急速に進む。好敵手同士のハイレベルな競争が、日本独自の軽市場を押し上げる。(大阪・田井茂、江上佑美子、浜松・稲垣志穂)

新型コロナウイルスの感染拡大など視界が不明瞭な自動車業界。その中で軽自動車は力強さをみせている。日本自動車販売協会連合会と全国軽自動車協会連合会によると、2021年度の車名別新車販売では、上位10車種のうち軽が4車種を占めた。ガソリン価格の高騰で燃費も優れる軽は、さらに価格競争力を高めている。市場は成熟しつつあるものの、軽を扱うメーカー数は依然として多く、各社は独自の技術や需要創出に勝ち残りをかけている。

ただ目下は「需要は堅調なのに部品不足が深刻でクルマが作れない」(ダイハツ工業の奥平総一郎社長)のが課題。低価格が売りのため、長期では電動化などに伴う大幅なコスト増も高い壁になる。

「通所福祉介護施設の高齢者送迎業務を外部に共同委託し、地域ぐるみで人手不足を解消できないか。モビリティーサービスの『ゴイッショ』ならば暮らしを改善できる」。ダイハツ工業が4月22日に始めたMaaS(乗り物のサービス化)のゴイッショについて、谷本敦彦コーポレート統括本部副統括部長はこう狙いを説明する。

ダイハツは車いす移動車や送迎車など福祉車両の販売を通じ、施設を何度も尋ね困りごとを聞き、解決策を考える地域密着プロジェクトを15年に始めた。施設は人手が足りず、業務の30%弱を占める送迎が重い負担となっていた。軽自動車需要の多くを占める地方では、送迎を担う交通事業者も人手不足であると分かった。

香川県三豊市で実施した高齢者共同送迎実証

これを解決するゴイッショは、送迎を交通事業者に委託し異なる施設間の送迎を共同化する。一つの施設に複数の交通事業者が送迎する重複を減らせる。送迎計画をスマートフォンで簡易・最適に作成できる支援システムも併用する。

香川県三豊市と三豊市社会福祉協議会の協力を得て、20年に実証試験を実施した。5施設と車両4台、1日に利用者25人が参加した結果、車両を20%減らせたほか93%の職員が負担軽減を実感できた。空いた時間で食事配送サービスも追加した。「送迎はまとめた方が安くなる。介護の品質も高まる」(ダイハツ)と手応えを示す。三豊市のモデル事業が成功したことで、22年度には5自治体との調査契約を目指す。

スズキ 「アルト」7年ぶり全面改良

スズキは、軽を代表するモデル「アルト」の新型を21年12月に投入した。燃費を含む経済性や気軽に乗れる点を重視し、7年ぶりに全面改良。同社の強みである加速時にモーターがエンジンをアシストするマイルドハイブリッド車(HV)をアルトとして初めて設定した。

軽市場では全高が高く、スライドドアなどで使い勝手を良くした「スーパーハイトワゴン」と呼ぶカテゴリーが主流。セダンであるアルトが求められているのかという議論から開発企画が始まったという。ユーザーの使い方などを検証し、経済性のためにはHVの設定が必要と判断した。燃費(WLTCモード)は1リットル当たり27・7キロメートルを達成した。アルトは「スズキにとっても軽にとっても重要な車」(鈴木俊宏社長)と位置付ける。

電動化の動きも加速している。21年4月から5カ年の新中期経営計画を発表し、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)対応の遅れを課題に挙げた。鈴木社長は「5年間で電動化技術を集中的に開発する」とし、研究開発費1兆円のほぼ全額を電動化開発に注ぎ込む方針。25年までに電動化技術を整え、30年には電動化技術を製品に全面展開する。

21年11月には、国内で25年までに実質負担額100万円台の軽自動車サイズのEV投入を発表した。電池のコスト低減が課題となる中、資本提携するトヨタとの協業深化も重要になる。

ホンダ 「Nシリーズ」デザイン強調

ホンダの「Nシリーズ」は11年の投入以降、累計300万台以上を売り上げる人気車種に育った。Nシリーズの代表車種「N―BOX」は、21年度の国内新車販売台数で1位となった。軽に限定すると15年度以降、7年連続で首位を保っている。

ホンダ「N―BOX」は累計300万台以上売り上げる人気車種

17年9月以降に発売した第2世代のNシリーズには、先進安全運転支援システム「ホンダセンシング」を標準装備。燃料タンクの配置を工夫することで室内空間の広さを実現するなど、安全性とともに快適性を前面に出している。

21年12月の一部改良時にはシリーズ共通ブランド「エヌスタイルプラス」を発足。専用の加飾や色を提案するなど、デザイン性を訴求している。生活の足として使われることが多い軽においても“自分らしさ”を追求したいという消費者のニーズに応えた。

ホンダは24年前半に、軽規格の商用EVを発売する。日本でのEV投入計画に軽を据えた理由について、三部敏宏社長は「日本でEVを普及させるには、日本の主力である軽の領域を攻略するのが一番」と説明する。

日産・三菱自 軽EVを先行投入

これに先行し、日産と三菱自は、軽EVを22年度初頭に投入する。両社の共同出資会社NMKVが開発し、三菱自の水島製作所(岡山県倉敷市)で生産する。電池容量は20キロワット時で、日常での足としての需要に応える。三菱自の軽生産のノウハウと日産の先進技術を組み合わせるとともに、「環境負荷の低さ」という新たな価値を乗せて走り出す。

日刊工業新聞2022年5月4日

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