社内外の人脈を可視化するSansanのAI活用法
名刺DB化、メール署名情報自動登録
Sansanは人工知能(AI)で社内外の人脈を可視化することで企業の効率的営業活動を支援している。この一環で同社主力の法人向け名刺管理サービス「Sansan」に、メール署名の情報を自動登録する新機能「スマート署名取り込み」を追加した。従来主軸としていた名刺交換なしで相手の連絡先などをデータベース化する。オンライン営業が普及する中、直接顔を合わせない出会いにも活用の幅を広げる。
Sansanは交換した名刺をデータベース化し、人脈の管理・共有をしやすくするクラウド型ソフトウエア。専用スキャナー(原稿読み取り装置)やスマートフォンのカメラで撮影するだけで情報を登録する。2007年から提供し利用者が増加し続けている。
こうした中、20年に新型コロナウイルス感染症が急拡大。同4月の緊急事態宣言で完全テレワークに移行した同社では、紙の名刺交換数が一気に半減した。だが、オンラインで名刺交換する機能が利用できようになると、同7月には前年同月比で同水準に戻った。川村良太Sansan Unit プロダクトマーケティングマネジャーは「つながりが減ったのではなく、つながる場面が変わった」と説明する。
こうした中、テレワークも交え開発したのがメール署名取り込み機能だった。名刺がなくてもボタン一つで相手の電話番号やメールアドレスなどをSansanに登録しデータベース化する。法人の管理者権限で一括手続きすると利用でき、追加料金はない。
商品化のため活用したのは「固有表現抽出」という手法。例えば社名なら“3文字以上”“数字だけで構成されない”といった一定のルールを基にする。さらに深層学習も併用し“企業らしいもの”を抽出する仕組みにした。この分野は大学などが先行してきたが、ビジネスメールの標本が少なかった。プロダクト戦略開発室の荒川彩子さんは「当社サービスとして提供できる水準にするため、社内で何度も検証を重ねた」と振り返る。
創業時からの名刺に関するサービスではAIだけでなく、個人を特定しない範囲で人による確認も併用し99・9%の高精度を担保してきた。一方の新機能は同じAIでも、メールサーバーの暗号化情報から必要なところだけ抽出する違いがある。川村マネジャーは「名刺で行ってきたように地道な積み重ねが必要。まだ第一歩にすぎない」とし、今後も精度向上に取り組むという。(渋谷拓海)