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「ゴーストキッチンしか生き残る道はない」…厨房機器メーカーが狙う外食の変革

「ゴーストキッチンしか生き残る道はない」…厨房機器メーカーが狙う外食の変革

コロナ禍で外食産業の業態は大きな変革を迎え、次世代厨房機器に注目が集まる(エレクター社の無煙調理ワゴンで調理)

新型コロナウイルスの感染拡大が、外食産業の業態開発にパラダイムシフトをもたらしている。客席を持たないデリバリーやテークアウト、中食への進出など、コロナ禍での生活環境の変化に対応する動きが広がる。外食産業の業態開発をサポートする厨房機器メーカーは、人工知能(AI)やデジタル変革(DX)を駆使した機器開発を加速。ポストコロナを見据えた製品やシステムを次々に生み出している。変革の渦中にある外食産業を支える厨房機器メーカーを追った。

“客席持たず”料理提供

「ゴーストキッチンしか飲食店が生き残る道はない」―。YO―PLUS(東京都目黒区)の片山瑛翔所長は外食産業のコロナとの共生について、こう持論を展開する。ゴーストキッチンとは客席を持たずにデリバリーやテークアウトで料理を提供する業態だ。通常の飲食店より商圏が広く、家賃の安いマンションや雑居ビルなどで始められる。同社はワンオペ(1人勤務態勢)の業態で20ブランドを運営する。

低コスト・多ブランドを実現する運営ノウハウの一つが無煙調理ワゴンの活用だ。もともとはホテルなどの宴会場で、お客の前で肉を焼くための熱調理機で、鉄板焼きやフライヤーなどをカセット式で交換できる。

ワゴンに排気浄化機能を備えるためフードの設置が不要で、厨房のない雑居ビルなどでも調理が可能。開業の初期投資も相場の半額程度となる500万―600万円に抑えられるという。業務用機器を扱うエレクター(東京都目黒区)の村田昇アシスタントマネージャーは「不採算店舗を閉めてデリバリーに特化するなど、柔軟な運用に活用されている」と説明する。

客席を持たないゴーストキッチンは、飲食店の“新しいカタチ”になりそうだ(昨年6月の東京・銀座オフィス街)

外食産業の中食進出も大きな潮流だ。コロナ禍を受けて冷凍冷蔵機器メーカーでは、受け取り用の冷蔵ロッカーやスマートショーケースが商機になった。あきんどスシローが運営する回転すしチェーン「スシロー」では、フクシマガリレイの冷蔵ロッカーを導入し、持ち帰りサービスを提供している。

フクシマガリレイと連携するダッハランド(京都市下京区)は、冷蔵ロッカーのサービス向けにアプリケーション(応用ソフト)を開発。冷蔵ロッカーの単品売りだけでなく、注文や決済などのアプリもセットで供給できるようにした。ダッハランドの森村柚午最高技術責任者は「誰でも冷蔵庫アプリを開発できるようAPI(外部とデータ連携できるプログラム)を整える。省エネルギー効果が見える化できるアプリなども開発したい」と力を込める。

“スマート”冷蔵ロッカー 宅配・持ち帰り対応

ホシザキやパナソニック、大和冷機工業など大手も、スマート化した冷蔵ロッカーやショーケースに照準を合わせている。飲食店向けはテークアウトの受け取り用、マンション向けにはフードデリバリーや置き配の受け取り用に冷蔵機器のニーズがある。大和冷機の工藤哲郎取締役は「(拡販には)飲食店だけでなく、デベロッパーなどとのタイアップが必要になる」と話す。

ラーメンなど料理の自動販売機も足元で急伸している。飲料の自販機に比べて料理は単価が高く利益率も良い。従来は商流が異なっていたが、コロナ禍で厨房機器メーカーが飲食店向けの営業を担うようになった。

フクシマガリレイのコールドロッカー

これを後押しするのが、経済産業省・中小企業庁の「事業再構築補助金」だ。通常枠は100万―8000万円で、中小企業は3分の2が補助される。2021年度補正予算では6123億円が措置された。個人経営の飲食店も急速冷凍機や自販機などを導入し、中食へ進出する事例も目立ってきた。

申請の計画作りなどを支援する、はじまりビジネスパートナーズ(さいたま市中央区)の白川淳一社長は「すし屋では魚を一尾単位で仕入れる。余った分をちらしずしや刺身、惣菜として持ち帰り販売を始めている」と説明。3回分の公募で89件の事業再生を支援し、各店舗が獲得した補助金の総額は約13億円に上る。

白川社長は「飲食事業者はコロナ禍で業態を複数持つべきだと痛感した。国の後押しもあり、事業ポートフォリオを増やすチャンスだ」と強調する。

【厨房のカーボンニュートラル】拙速な電化「間違い」

 

経営者の意識は脱炭素にも向かっている。三菱UFJリサーチ&コンサルティングによれば、18年度の国内飲食サービス業(宿泊業を含む)の温室効果ガス排出量は2500万トン。総排出量の2%ほどだが、ガスや熱を扱うため顧客などからの関心が高まっている。

日本厨房工業会の谷口一郎会長(タニコー〈東京都品川区〉会長)は「ガスを燃やして将来はあるのか、投資しても大丈夫かと相談された。厨房をすべて電化すべきだというのは誤解だ」とため息をつく。そもそもガスと電気では熱量が違う。厨房で二酸化炭素(CO2)が出るからと、拙速な電化を進めると調理が追いつかずに店が回らなくなる可能性もある。

谷口会長は「業界として厨房のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)について、基礎的なところからの広報活動が不可欠だ。資格や教育制度にも反映する必要がある」との認識を示す。

タニコーのモデル厨房

業界として機器の省エネ効果を測る〝ものさし〟も欠かせない。工業会では過去にものさし作りに取り組んだ蓄積がある。フジマックの熊谷光治社長は「省エネ技術は常に磨いている。エネルギー効率は付加価値そのもの」と説明する。省エネは飲食店のランニングコストに直結する。各社の営業活動に響くため、ものさし作りは総論賛成でも具体設計は紛糾する可能性がある。

だが、事業再構築補助金にグリーン成長枠が新設されるなど、今後の経済対策は脱炭素の取り組みとセットになることは避けられない。世界的にも脱炭素の大型投資は経済対策の側面が強く、政策に相乗効果が求められるからだ。

谷口会長は「将来的にはバイオガスや水素の混焼など、熱機器の対応も課題になるだろう」とみる。厨房での脱炭素は多くの事業者が実践できる取り組みだ。厨房機器各社は店舗レイアウトのコンサルティングを通し、飲食店のシステムインテグレーターとして後方支援する。エネルギー管理の高度化など、脱炭素の推進役になれるか。各社の手腕が試される。

日刊工業新聞2022年2月23日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
「天ぷら一筋三十年。コロナでこんな時代じゃなくなった」と聞くとコロナ禍の飲食店への影響の大きさを感じます。ゴーストキッチンは食品衛生管理責任者は誰なのかなど、闇の部分もフォーカスされがちです。厨房機器メーカーの経営者からも、客席がない店では怖くて注文できないなどと聞こえてきます。ですがセントラルキッチン方式やケータリングは従来からありました。ちゃんとやってる事業者が生き残れる仕組みをプラットフォーマーが整えないといけません。これはプラットフォーマーの競争力であり責任だと思います。コロナ禍前、厨房機器各社は外食産業の深刻な人手不足に応えようとロボットや人工知能(AI)活用を進めてきました。これが飲食店での非接触対応や中食進出、デジタル変革(DX)を後押ししました。次は脱炭素です。省エネ技術は飲食店のランニングコストに直結するため常に開発されています。この効果を適切に見える化する必要があります。

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