商機広がる「サービスロボ」、コロナが活躍の“舞台”増やす
コロナ禍や人手不足を背景に、サービスロボットの開発が進んでいる。グルーブエックス(東京都中央区)など4社は、人とロボットが共生する新ライフスタイルの発信施設「PARK+」を東京・渋谷にオープン。外食ロボではテックマジック(同江東区)やコネクテッドロボティクス(同小金井市)を筆頭に、製品開発が進む。情報処理やマシン制御、人工知能(AI)などの技術進歩でロボ導入の壁だった要素が少しずつ取り除かれ、参入のチャンスが広がっている。(編集委員・嶋田歩)
【コミュニケーションロボ】“人なつこさ”で癒やし/介護・見守りでも活躍
家庭用ロボは1999年にソニー(当時)が投入したイヌ型ロボット「アイボ」を契機に注目されたが本格普及には至らなかった。当時は情報処理や機械制御、AIといった技術要素に限界があり、ロボとしての機能性を十分に発揮できなかったためだ。足元ではこれら要素技術の進化により、ロボの高度化を実現。9月末には米IT大手アマゾン・ドット・コムが家庭用ロボ分野への参入を発表するなど、業務用を含めサービスロボ市場がにわかに活気づいている。
日本でも大手からベンチャー企業まで、各社が技術革新にしのぎを削る。「PARK+」では、グルーブエックスの「LOVOT(らぼっと)」をはじめ、シャープの「ロボホン」やミクシィの「ロミィ」、ヤマハの「チャーリー」といった各種ロボが一堂に会す。実際に触れたり、話しかけたりでき、普及促進の拠点となっている。
らぼっとは子犬程度の大きさで、かわいがってくれる相手の後を付いて行くなど“人なつこさ”が売りだ。販売台数は非公表だがウェブサイトのほか、東京・大阪・名古屋の高島屋店舗などで販売し、本体価格は34万9800円(消費税込み)としている。「マンション住まいでペットを飼えなかったり、家族にアレルギーがあったりと阻害要因が存在する。らぼっとはこうした障害を解消、長期不在やペットロスの心配もない」(担当者)と説明する。
高齢者介護施設でのニーズも高まっている。SOMPOケア(東京都品川区)は介護サービス事業所10カ所で、らぼっとを導入した。コロナ禍で施設の入居者は外出や家族との面会が制限されており、刺激のない生活でのストレス解消や認知症の予防に役立てている。他の高齢者施設でも、導入が増えているという。
ミクシィは敬老の日に合わせ、自律型会話ロボのロミィに五つの機能を追加。高齢者の自宅にスタッフが赴き、初期設定や使い方をレクチャーする「訪問設定サポート」、コロナ禍での健康維持に向けた「筋トレカウント機能」などを用意した。
ユカイ工学(同新宿区)は9月に、しっぽのついたクッション型セラピーロボ「Qoobo(クーボ)」「プチ・クーボ」の累計販売台数が3万台を突破した。コロナ禍前と比較し、同社の製品売り上げは2倍以上に伸びた。この要因について「コロナ禍において自宅で過ごす時間が長い分、触れ合いによるぬくもりや癒やしを求める需要が増えた」(担当者)と分析する。
施設と違い、自宅住まいの高齢者にロボを提案する際の課題は、ITが苦手な高齢者は自分で初期設定ができないことだ。遠方の家族が老親のため、これらロボを送っても放置されてしまうのが関の山。息子や娘が最初に自宅を訪れて使い方を教えても、何かの弾みで動かなくなれば高齢者も興味が薄れ“ただの置物”になってしまう。家庭向けのコミュニケーションロボの本格普及には、アフターサービス体制の充実がカギを握る。
【外食向け調理ロボ】繰り返し作業の負担軽減
外食向けでは、テックマジックやコネクテッドロボティクスのロボ開発が進む。テックマジックはこのほど、好みに合わせて内容をアレンジする「カスタムサラダ」を手がけるCRISP(東京都港区)とサラダ調理ロボの共同開発で契約を結んだ。
携帯端末でオーダーできるアプリケーション(応用ソフト)や店頭の客注文と連動して最大287万通りのカスタムサラダを自動で供給できるロボを開発し、2022年7月に店舗導入する計画。テックマジックはパスタロボットでプロントコーポレーション(同港区)、盛り付けロボットで日清食品ホールディングス(HD)ともロボ開発で提携済み。プロントのパスタ店舗は年内にもオープンする。
繰り返し作業の調理仕事をロボットに任せることで労働負担の軽減に加え、店員は顧客のおもてなしなど、きめ細かなサービスに集中できる。コネクテッドロボティクスが展開中の「そばゆでロボット」の場合、協働ロボが2台並んだ双腕型で、1人分の生そばが入ったざるを持ち上げて湯の中でゆでて、一定時間後に引き上げて湯切りし、冷水で締める作業を全てロボが行う。短時間で大量の注文をさばくフードコートやそば店などの利用を想定し、パスタやラーメンといった麺を扱う外食店にも売り込む意向だ。
「外食企業はこれから人手不足が深刻になる」。ニチワ電機(兵庫県三田市)の西耕平専務は指摘する。緊急事態宣言解除で客足が戻っても、料理を提供できる店員がいない。人材を再募集しても教育訓練に時間がかかり、年末にも感染再拡大が予想される“コロナ第6波”の状況を考えるとおいそれと人は増やせない。必然的にロボの出番が増す。外食各社では調理ロボ以外にも、配膳ロボや食器片付けロボ、感染防止の消毒ロボなどの導入が進む。
外食各社にとって作業のどこをロボに任せるか、どれを人間がやるかのすみ分けは重要なポイントだ。00年代にタッチパネル機器などで省人化した低価格の居酒屋やファストフード店が数多く登場したが、食材の値上がりもあって客足が遠のいている店舗も多い。
298円均一などの“最初に値段ありき”の店では食材・人件費の高騰で商品サイズが年々小さくなり、サービス品質の低下で客が離れる。生き残った外食企業では鳥貴族HDやリンガーハットのように中身や質で圧倒的な競争力を持つ看板メニューをまず開発し、店内の導線や調理器具などもそれに合わせて作り込んでいる例が多い。ロイヤルHDの「てんや」、アークランドサービスHDの「かつや」も同様だ。
外食産業で、持ち帰りのからあげと並び、急成長中なのが新世代のハンバーガーだ。モバイル注文で在庫のロスなどをなくし、客は店内ボックスに受け取りに来る新たな手法で接客や後片付けなどの仕事を排除。浮いたコストにより“同一値段で、より高品質でおいしいバーガー”開発に注力できる。テックマジックの白木裕士社長は「新興勢力の多くはデジタル変革(DX)と連動しているため、ロボットと親和性が高い。有望市場になる」と期待する。