外食産業を支える厨房機器、コロナ禍による各社の新提案とは?
業務用厨房(ちゅうぼう)機器各社がコロナ禍で新提案を増やしている。飲食店やホテルなどの主要顧客がダメージを受け、店舗の撤退が相次いだ。通常は空き店舗へは次のテナントが入り、厨房機器が動く。コロナ禍で飲食業界の体力が削られ、まずは中古品が動くとみられる。厨房各社は外食産業の業態開発を支える存在だ。コロナ後を見据えて知恵を絞る。(取材=小寺貴之)
香りも守るふた
「先は明るい。ただどこが一番暗いかは、まだ分からない」と日本厨房工業会会長を務めるタニコー(東京都品川区)の谷口一郎会長は説明する。コロナ禍ではパブや居酒屋などのアルコールを出す店は売り上げが半減した。会って食事を楽しむニーズはなくならないものの、コロナ禍の収束はまだ見えない。
そこで厨房各社は衛生や非接触、物販などを提案する。タニコーはビュッフェ方式の大皿に透明なふたをするシステムを提案する。衛生のためにふたをしても、そのふたを不特定多数が触る課題があった。そこで非接触スイッチで開閉する。
ふたが開くと、たまった料理の香りが広がる。エスニックやカレーなど、においの強い料理を並べても混ざらない。鮮烈な香りをそれぞれ楽しめる。
物販にAI活用
大和冷機工業は人工知能(AI)ベンチャーのbestat(同文京区)とAIショーケースを開発した。冷蔵や温蔵などのショーケースに料理や弁当を並べ、商品を取りに伸ばした手を画像認識AIで検出する。ユーザーを登録すれば顔認証、商品を登録すれば入出庫管理が可能。複合商業施設で従業員向けの弁当の無人販売店として活用されている。
大和冷機工業の工藤哲郎取締役は「女性の活躍につなげたい」と説明する。働く母親が夕飯の用意に追われる場面を想定する。下ごしらえ済みの食材が入ったミールキットをスタッフ交代の時間帯に販売。帰り際に買えれば夕飯に悩まなくて済む。企業の福利厚生策に提案する。
コロナ禍では宅配と持ち帰りが広がった。宅配や持ち帰り専業の「ゴーストキッチン」という業態が注目された。客席がないため厨房に食器の洗い場はいらない。時間当たりの販売数を上げるため、下ごしらえ済み食材のストッカーは多めになる。
店別に最適機材
ただゴーストキッチン向けの厨房パッケージが固まるまでには、まだ時間がかかりそうだ。マルゼン研究開発センターの阿部俊明課長は「扱う料理と時間区分、店舗面積によって最適なレイアウトが変わる。個別提案が重要」と説明する。フライヤーとスチームオーブンのような汎用性の高い機材が主軸になるが、ピザを扱うなら高温で焼くピザ窯、中華を扱うなら大火力の中華レンジなどの専用機が必要だ。
そもそもゴーストキッチンの新設は多くない。既存店の改修が中心になるため、既にある機材との組み合わせを含めて個別提案することになる。タニコーの谷口会長は「求められる機能は料理教室に近い」と指摘する。人が調理すれば何でも作れる。だが、自動化の進んだ専用機でないと効率が上がらない。店舗ごとの最適化が腕の見せどころになる。新しい業態開発を厨房から支える。