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鋳造機械を手がける新東工業、社長の経営哲学

「根本にあるのはお客さま1社1社を大事にすること」

1923年(大12)に鋳造で創業した新東工業は34年に鋳造機械メーカーとして株式会社化。関連技術を生かし表面処理装置や集塵機、粉体・セラミックス関連製品、検査や搬送の装置などを事業化した。今は世界17カ国に拠点も持つ。永井淳社長は顧客との個々の関係をより強めるためグループのブランド統一を図った。

「かつては『新規事業に金と技術は出すが後は自由』だった。名刺や制度も会社別に違い、社外から『グループがバラバラ』と言われた。これでは世界に当社の価値が伝わらない。世界であたかも1企業のように動けるグループにしたかった」

祖父の嘉吉氏は戦中戦後の経営危機から同社を再建し、49―70年に社長に就いた。会社の近代化を進め「堅実にして先取的」「相互の信頼を深め果敢断行」「至誠を持って社会に奉仕」を旨とする社是を定めた。祖父は中興の祖とされ、父の譲氏も76―96年に社長を務めたが、創業家でもオーナーでもない。当然「社長になると思っていなかった」。

しかも社長就任時は45歳で周囲は先輩ばかり。「反骨心もあり認められるよう文字通り『人一倍』を心掛けた」という。実際、細部にこだわりつつフットワークは軽い。ブランド統一の具体策の一つとして進めた事業別の技術拠点新設は自らのアイデアだ。技能を実践的に学ぶ研修センター、世界統一の社内技能検定制度も導入した。

「ブランドを象徴する戦略製品は、世界のお客さまに言葉なしで企業価値が伝わる。選ばれる良い製品をつくるには高い技能が必要。世界に通用する技術を通じお客さまとの信頼関係を築き共に発展するとの思いを込めた経営理念『HEART』を実践し、教育や仕事の仕方を統一した」

鋳造機械は海外市場中心で競合が激しい。21―23年度の中期経営計画「プラス」で新市場・新分野の取り組みを加速する。デジタル関連やロボット、医療福祉、エネルギー関連と対象は幅広い。顧客数を約3万件から2500件増やす。その基盤が顧客1社1社との関係づくりだ。

「父とは仕事の話をしたことはないが、長年上司だった平山正之前社長を含め多くの先輩から技術と技能を大切にする基本を学んだ。これを大事にしつつ社員の夢を受けとめられる会社でありたい」(編集委員・村国哲也)

略歴

 

ながい・あつし 84年(昭59)慶大商卒、同年新東工業入社。86年米ノートルダム大院経営修士修了、96年取締役、00年常務、02年専務、04年副社長、06年社長。愛知県出身、61歳。

日刊工業新聞2022年2月10日

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