国産機「ヒノトリ」と先駆け「ダビンチ」、手術支援ロボットの主役はどっちだ!

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手術ロボはソフトやデジタルサービスが新たな競争軸に(ヒノトリの特長を説明するメディカロイドの田中博文副社長)

手術支援ロボットの開発が新たなステージに移った。ハードウエアの高度化に加え、ソフトウエアやデジタルサービスで差別化を図る動きが活発化。同ロボットの先駆けである米インテュイティブサージカルや初の国産機を開発したメディカロイド(神戸市中央区)が、新サービスでしのぎを削る。これら分野には新たなプレーヤーも相次いで参入しており、ソフトやサービスをめぐる開発競争は激しさを増しそうだ。(石川雅基)

【性能差縮まる】“神の手”デジタル化

「医師からは操作感がほぼ同じという評価をもらっている」。川崎重工業とシスメックスが共同出資するメディカロイドの田中博文副社長は、自社のロボット「ヒノトリ サージカルロボットシステム」と、インテュイティブの「ダビンチサージカルシステム」の性能差が縮まっていることを強調する。泌尿器のロボット支援手術の指導医で、ヒノトリの開発テストに携わった医師も「操作に関しては甲乙つけがたい」と話す。

ロボット技術の高度化を追い風に、手術支援ロボットはハード面で高機能化が進み、ソフトやデジタルサービスが新たな競争軸となりつつある。インテュイティブを追うメディカロイドの浅野薫社長は、「今後ヒノトリが手術支援ロボットをリードするためのカギは手術のデジタル変革(DX)にある」とみる。

ヒノトリはシスメックスとオプティムが共同開発した人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)を活用したシステム「MINS(マインズ)」を搭載。動作情報や内視鏡・手術室全体の画像などをリアルタイムにメディカロイドのサポートシステムと共有できる。「トラブルの際、サポートセンターで動作情報を把握して迅速な解決につなげる機能も開発済み」(広報担当者)とする。

さらに「集めた情報をデータベース化し、AI解析とシミュレーションを加えることで、ロボット手術のベストプラクティス(最適解)の抽出を目指している」(浅野社長)。これを手術シミュレーションや術前のセットアップ、術後のトレーニングなどに活用する方針で、手術の一部自動化も見据える。

浅野社長は「手術はこれまで“神の手”の領域だった。ヒノトリを使って手技・手術室をデジタル化することで、手技の平準化につながる」と期待。2025年ごろの実用化を目指す。遠隔手術も視野に入れており、将来の普及を見据えて「(遠隔手術に)対応しやすい基本設計にした」(川重の橋本康彦社長)。21年には神戸大学、NTTドコモと第5世代通信(5G)回線を活用した実証実験を実施した。

インテュイティブもデータ活用に注力している。2月にダビンチの稼働時間や各鉗子(かんし)の操作時間といった手術データを分析し、スマートフォンで確認できるアプリケーション(応用ソフト)を日本で提供する。これまで暗黙知だった医師の手技をデータで見える化できるのが特徴だ。全国の平均値との比較も可能で、自身の習熟度や手技のくせなどが分かる。同社日本法人の滝沢一浩社長は「熟練の医師ほどカメラを含め4本のアームを使いこなしている。データから手技を比較し、トレーニングに生かせる」と話す。

手術前に撮影した手術部位の3次元(3D)検査画像を、操作席の執刀医のモニターに表示する機能も開発中。執刀医は顔を動かさずに術野の映像と3Dの検査画像を見比べられ、手術の負担軽減や高精度化が期待できる。滝沢社長はダビンチが今後も選ばれるには、治療成績と患者満足度の向上、ケアチームの負担軽減、病院のトータル治療コストの削減が重要とみる。

【低コスト化進む】コンパクトで導入しやすく

外科領域の手術支援ロボットをめぐっては、インテュイティブが長年、世界市場を独占してきた。00年の米国投入を皮切りに、欧州、アジアなどで導入が進んだ。21年12月までに6500台以上が稼働し、1000万件を超える手術で使われた実績がある。

日本では10年に発売され、450台以上が稼働する。18年に胃がんや食道がん、肺がんなどの術式が保険適用となったことで、コロナ禍でも年約20%のペースで症例数が増加。ダビンチの稼働率向上により、採算が改善している病院も増えているという。

一方のメディカロイドは20年に日本でヒノトリを発売。21年11月までに60件以上の手術で活用された。2億―3億円程度するダビンチよりも価格を数割程度抑えたことで、これまで価格面からロボットを導入できなかった病院へ拡販。サイズもダビンチより小型化し、既存の手術室でも使いやすくした。

インテュイティブも応戦。手術器具の価格を抑えたり、使用できる回数を増やしたりすることで手術費用を下げている。滝沢社長は「導入費用だけでなく、低侵襲な治療で入院期間を短くするなど病院のトータル費用を下げることを考える必要がある」と指摘する。

今後、医療機器大手の米ジョンソン・エンド・ジョンソンやアイルランドのメドトロニックなども、外科領域の手術支援ロボット市場へ本格参入する方針だ。UBS証券の小池幸弘アナリストは新規参入について「(既存の手術支援ロボットと)ハードの機能面で大きな差はつけにくいだろう」と指摘。「データやソフト、価格が手術支援ロボットの差別化のポイントになる」とみている。

手術支援ロボット市場は、市場の急成長が見込まれる。米調査会社のリポートオーシャンは世界の市場規模について、20年の約54億4000万ドル(6200億円)から、27年には169億2000万ドルまで拡大すると予想する。

【私はこう見る】

◆分析ツールの需要増える UBS証券アナリスト・小池幸弘氏

外科医は学ぶことに貪欲な人が多く、データを活用した教育ツールは関心が高いとみている。外科では世代交代が進み若い医師が増えている。ITに習熟していることから学習効果も大きいだろう。

病院経営の視点からもデータ活用の重要性は高まっている。高額な医療機器のダウンタイムや稼働率などを分析できるツールは、経営者のニーズに合致する。今後、手術支援ロボットを導入する病院が増え、自院だけでなく他の病院ともデータ比較できるようになれば分析ツールの需要は一層増えるだろう。

国内で手術支援ロボットの導入が進むかは、保険点数での加算にかかっている。4月の診療報酬改定で、症例数が多い胃がんなど消化器の手術が加算対象になるか注目している。(談)

日刊工業新聞2022年1月27日

キーワード
DX ロボット IoT

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