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過去最大額の社債を発行、JR東日本のこれからの財務戦略

JR東日本は9月、外貨建て社債を円換算で約2023億円調達することを決めた。外債発行は約14年ぶりで、同社における一度の社債発行額としては過去最大。調達資金は有利子負債の返済などに充てる。人の往来が激減し、コロナ禍が業績を直撃する中で「早め、多め、長め」の資金調達で財務の健全性確保に努めている。

コロナ禍前までは同社は増益基調にあり、利益剰余金は2017年3月期の2兆2989億円から20年3月期は2兆8093億円まで積み上げてきた。だがコロナ禍で一転、21年9月末時点で2兆162億円まで減らしている。

21年10月には、22年3月期連結決算の当期損益予想を360億円の黒字から1600億円の赤字に修正。売上高も従来予想比2690億円減の2兆570億円、営業損益を1150億円の赤字(従来予想は740億円の黒字)に見直した。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の土谷康仁シニアアナリストは「赤字幅が思ったよりも大きい印象だ」と指摘する。実際、JR東日本は今春の段階で鉄道利用が年度末に向けて回復し、秋にはコロナ禍前の8割程度まで戻ると想定していた。ところが度重なる緊急事態宣言の発出で「鉄道需要の戻りに(当初の想定よりも)ずれが生じている」(伊藤敦子常務)など、感染状況で業績が左右されるリスクもはらむ。

同社が財務指標の一つとするのがEBITDAネット有利子負債倍率だ。22年3月期は一時的に上昇するものの26年3月期までに5倍以下に改善し、「中長期的に3・5倍程度とする」としている。

21年1月には中期経営計画を見直し、26年3月期に運輸とそれ以外での営業収益比率を現状の「7対3」から「6対4」に設定し、将来的には「5対5」を目指すとした。

運輸事業では固定費削減に努める。22年春のダイヤ改正では新幹線や在来線の運行本数を減らす方針だ。また、不動産アセットマネジメント事業を担う新会社としてJR東日本不動産投資顧問を今春に設立するなど、非運輸事業で新機軸を打ち出している。財務の健全性維持につなげるためにも、これらの事業を一刻も早く収益に貢献するよう育成することが求められている。

日刊工業新聞2021年12月9日

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