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【東原敏昭】パーパス思考が育む“日立の共感力”

自分たちは何のために働くのか
【東原敏昭】パーパス思考が育む“日立の共感力”

日立製作所の東原敏昭会長

日立製作所の東原敏昭会長が持つ社会貢献意識は筋金入りだ。現在旗を振る、社会インフラの課題をデジタル技術で解決する社会イノベーション事業と相通ずるものはあるが、東原会長の原点は入社した44年前にさかのぼる。

入社直後に配属されたのが大みか工場(現大みか事業所)だった。当時の伊沢省二工場長による新入社員らへの訓示に深く感動したのを覚えている。伊沢工場長は作家・山本有三の『路傍の石』の有名な1節「たったひとりしかない自分を、たった一度しかない一生を、ほんとうに生かさなかったら、人間、生まれてきたかいがないじゃないか」を引用した。

「『働きがいのある仕事の仕方をしなさい』という趣旨だった。当時は企業戦士と呼ばれ、会社に入って一生懸命働くことが美徳とされた時代であり、工場長の言葉に驚いた」

最近はグローバル企業中心に「パーパス(存在意義)」を再定義する動きが活発だ。

「『パーパス思考』は会社にとってすごい推進力となる。従業員一人ひとりが社会との関係性において『日立は何のために存在するのか、自分たちは何のために働くのか』を考える好機だ」

東原会長自身が日立の存在意義を実感したのはJR東日本の東京圏のコンピューター化だった。1995―97年に担当し、トラブルなどで乱れたダイヤを自動で正常に戻すソフトウエア開発に死に物狂いで取り組んだ。

「自分たちの仕事が社会にどう貢献しているかを意識した。ダイヤが乱れても従来の3―4時間から約30分で正常に戻るので乗客への迷惑が少なくなる。社会貢献の重要性を痛感した」

日立研究所と中央研究所の初代所長を務めた馬場粂夫氏が好んで使った言葉「空己唯盡孚誠(己〈おのれ〉を空〈むな〉しうして唯〈ただ〉孚誠〈ふせい〉を盡〈つく〉す)」も示唆に富む。

「利他の精神を表しており、私心を捨てて相手を思う“共感力”とも言える。良い製品があるから売りたいではなくて、(2014年の社長就任以降)真っ白な気持ちで顧客の課題を聞き出すことから始める仕事の仕方に変えていった」

大みか工場の新人時代に仕事のイロハを教わった前会長の中西宏明氏が6月に亡くなった。情にあつい人柄ゆえ今はまだ気持ちの整理がついていないだろうが、いつか中西氏から学んだ経営哲学も聞いてみたい。(編集委員・鈴木岳志)

【略歴】ひがしはら・としあき 77年(昭52)徳島大工卒、同年日立製作所入社。99年大みか電機本部交通システム設計部長、07年常務、13年専務、14年社長兼COO(最高執行責任者)、16年社長兼CEO(最高経営責任者)、21年会長兼CEO。徳島県出身、66歳。

日刊工業新聞2021年8月17日

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